鳥取県教育委員会委員長 山田 修平
教育委員、また短期大学学長として「人を育む」仕事に関われること、ありがたいことだと年々強く思うようになります。人が伸びやかに成長するのを感ずるのは、ましてそのお手伝いを少しでもできることは、この上ない喜びです。
私は卒業する若者たちに次の5つのHなメッセージを贈り続けています。
生涯「楽」習を
先ず、Head(頭、専門知識)とHand(手、専門技術)。何事を成すにも専門知識、技術は不可欠です。そのためには学ぶことです。確かに、人は小学校から、高校、大学まで学び続けます。しかし、学びは一生涯ものです。「卒業だ、さあ学ぼう」と卒業式で私は呼びかけます。勿論学生たちはそれまでにしっかり学んできました。でも長い人生、激しく変化する時代にあって、それは基礎でしかあり得ません。自分から学ぶことです。学びは本来、人から与えるものではなく、主体的に取り組むことです。だから楽しいのです。何事もそうですが、強制されて行うか、自ら行うかでは、その楽しさが違います。自ら楽しく学んだとき、学びは本当の「力」になります。私はそのような学びを「楽習」と呼んでいます。学びに付け加えれば、早朝の活用です。朝の30分は夜の2-3時間に匹敵します。早朝の楽習は人生を変える気がします。
小事の実践とボランティア活動の日常化
次はHeart(心)です。心はコロコロ変わるから心というのかもしれません。心は前向きなとき、向上心に満ちたときばかりではありません。心がサビついたとき、ストレスが溜まったとき、どうすればよいのか。私自身ができているわけではありませんが、小事を大切にすることです。時間を守る、挨拶をする、小さな約束でも必ず守る、落ちているゴミは拾う等の小事、いわば人としての基本です。「人は小事でしか計れない」という言葉があります。人を信用する、しないというとき、見掛けや大きなことよりも、小事で私たちは判断しているというのです。人がどう判断するかは別として、自分自身の心のありようを正すのに小事は大切です。
心についてもう一つ大切なのは、日常生活の中でボランティア的なことをさらりと行うことです。ボランティア活動とは、自ら、人(他)のために、見返りを求めないで行う活動です。強制されて行うのではなく、小さな自分のためではなく、また金銭や名誉を求めて行うのではない活動です。私もNPOに関わり、ささやかなボランティア活動を継続的に行っていますが、とても心がリフレッシュします。名刺の肩書きと関係のない仲間が沢山できました。ボランティアは「心の入浴」だと思います。
腰骨を立てる
Health(健康)も勿論大切です。確かにいくら気をつけても病気になるときはなります。しかし、できる限りの健康への配慮は必要です。それぞれに応じた健康づくりがあっていいと思います。ここでは心身の健康づくり、特に子どもたちの健康づくりについて1つだけ示します。姿勢を正すこと、立腰です。腰骨を立てると自然に背筋は伸びます。コチコチの真っ直ぐではなく、柔軟で伸びやかな姿勢を保つことです。そうすれば、体だけではなく心も豊かになり、さらに物事を主体的に考え、取り組むことにも繋がります。心身は一体化しています。例えば、気持ちが萎えたとき、病気のとき私たちは背中を丸めています。また駅周辺でしゃがみこんでいる若者の背中は曲がっています。そんな時、腰骨を立て、背筋を伸びやかにするだけで気分は明らかに違ってきます。この姿勢を保ち続けること、これが真の意味の自立へ道でもあります。
人生のテーマを
最後に、Hope(希望、夢)です。人生は白いキャンパスにたとえられます。キャンパスにどのような絵を描くかは本人次第です。モチーフはなにか、人物、自然を描くのか、抽象画を描くのか、それぞれです。自分自身のモチーフが決まったとき、私たちは、描き始めます。モチーフもなく描いていてもまとまりません。人生も似ている気がします。人生のテーマ、希望、夢が見つかったとき、自分自身の人生を歩み始めることができます。夢が見つかり、その実現のための具体的実践が始まったとき、それぞれの人生は軌道に乗ったといってよいでしよう。そして子どもたちに、若者たちに夢や希望を与えるか否かは、結局私たち親、大人の生き様です。希望の香りのする親、大人でありたいと思います。
私自身へのメッセージ
この5つのHの関係をこのように考えています。Hopeの実現のためには、HeadやHandが必要です、そのためには学ぶことです。しかし、知識や技術だけでは不十分です。その土台にはHealthや小事を大切にする、いわば足元の実践がなければなりません。5つのHは育みたい人間像であると共に、私自身へのメッセージです。