防災・危機管理情報


  

「コラム」(鱸委員)

鱸委員写真 教育委員 鱸 俊朗

 ニューヨークのビルの一角に民間がひらいたラボ(研究室)があり、一ヶ月100ドル払えばだれでも利用でき、三日間のレクチャーをうければ、自らの頬粘膜からとった組織から、自らの遺伝子解析が可能となったり、光る遺伝子を細菌に埋め込みその細菌を含む培養液をつかって、培地のうえに絵画を描き、培養器のなかで細菌を増殖させ、アートとして鑑賞する研究ができるとのことである。
 起業を志す研究者たちが、自由に情報-意見交換しながら成果を出しているとのことである。“スティーブジョブズが活躍したシリコンバレーを彷彿する”と報道されていた。まさに、アクティブラーニングである。

 獲得した知識がどんどん塗り替えられて先の見えにくい時代に、ただ知識を持っているだけでは通用しない。人工知能(AI)の進化で「今後20年程度で半数近くの仕事が自動化される可能性が高い」との予測さえある時代。今回の学習指導要領改訂の狙い“知識習得が中心の受け身の学習ではなく、討論や発表などを通した「主体的・対話的で深い学び」”は的を得た改訂であると思う。
 心理学者(ダニエルカーネマン)によると人間の認知は、システム1(直観)とシステム2(論理)の二つで成り立っているようである。人間が進化の過程で獲得してきた過去の経験や感情に照らし合わせて素早く判断を下す能力(直観)と、論理的思考の得意なAIをどう使いこなすかが問われる時代が来るのではと考える。
 また、小学校の英語教科化やプログラミング教育の必修化も社会のグローバル化、IT(情報技術)化など「変化への対応」を踏まえたものと理解できる。
 
 数学者の岡潔は彼の著書“春宵(しゅんしょう)十話”の中で「情緒の中心が発育を支配するのではないか、とりわけ情緒を養う教育は何より大切に考えねばならないのではないか」「今日の情緒があすの頭を作る」(人間の情緒と教育)とのべている。動物から人間への進化の過程で得た、大脳新皮質の感情コントロールの中枢である前頭葉を、いかに教育の中で育てるかが問われているのだと思う。幼保連携による教育の重要性と各ライフステージへのつながりのある教育が期待される。

 教員に求める能力はますます高くなり、負担も増える。また、子供たちの自殺、いじめ、不登校、子供の貧困が生む教育格差など、負の社会的因子と対峙し、現場を支える手立てを地域、家庭の支援を得ながら包括的に講ずるかが問われている。
 今回の学習指導要領の改訂が成果を上げるためには、少子超高齢化という社会背景 のなかで、それぞれのライフステージでの教育の変革を、教育をうける世代およびその関係者だけでなく、一般国民が広く理解できるよう十分なインフォームドコンセントが望まれる。

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