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スタンフォード白熱教室

鳥取県教育委員会 委員 中島諒人

 

 少し前のことですが、アメリカ西海岸の大学の授業を取り上げた『スタンフォード白熱教室』というNHKの番組を見ました。スタンフォード大学は先端技術産業の中心地シリコンバレーの主要な大学です。アップルコンピュータ、ヒューレット・パッカード、インテル、グーグルなどが本拠を置く都市の中で、旧来の枠にとらわれない自由な発想の人材を育てることが大学の大きな使命です。
 番組は何回かのシリーズで、ある有名な先生の授業(ゼミのような小規模なもの)を追いかけていました。コーヒーの新しい飲み方を考えてみようというのが授業のテーマで、私が見たのは最終回の成果発表でした。4人程度のグループの共同作業でプレゼンが行われます。
 プレゼン内容をいくつか紹介しましょう。コーヒーをどこでも飲めるように、スティック状のゼリーにする。どの豆とか何をトッピングするとか、具体的な注文が煩雑なので、その日の気分を言えばそれにあわせたコーヒーが提供される店にしたい。iPhoneのアプリを新しく作って、店に着く数分前に注文を入れて、店に着くとすぐにコーヒーを飲めるようにしたい。
 みなさん、どう思われますか?発表の内容自体は、私はそれほどおもしろいとは感じませんでした。日本の学生がやってもほぼ同じか、もう少しいいものが出るかもしれません。
 ただ、授業の進め方で、おもしろいと思った点が二つありました。一つは、発表の前にみんなで体を動かしたことです。単純に体操をしたのではありません。みなが輪になって立ち、一人が真ん中に大きな木のイメージで立ちます。
次に誰かが(指名されるのではなくて、自発的に参加します)、その木と関わりのある何かとして加わります。番組では、教員の一人が、鳥になって木の周りを飛びました。次の人は(この人も自発的に加わります)、この木と鳥のどちらかを取り除いて、そこに新しいものを加えて、新しい関係を作ります。木を取り除いて鳥が残り、そこに花となって加わる、というような感じです。これを繰り返します。演劇のワークショップで行うような内容です。学生をリラックスさせつつ、頭だけでない全身的な思考、他人に対する柔軟で協調的な感覚、目の前の関係に縛られない自由さなど、授業の目指すところを別のカタチで見事に提示して、成果発表への導入としました。
 もう一つは、グループのプレゼンの形式が1分間のビデオによるものと決められていたこと。学生は(恐らくですが)映像製作の専門ではありません。そんな彼らにパワーポイントでなく映像でという条件が普通に課せられるのです。
 私などには、映像の作成や編集というと、少しハードルの高い仕事に思えてしまうのですが、今はビデオカメラとパソコンさえあれば、映像作成は小学生でも出来ます。スライドショー形式、人が出演してしゃべる、芝居形式など手法には工夫がありました。教員の側は、内容と同じくらいに手法とかデザインを重視して評価をしていました。
 自発的、創造的にからだを使うこと。ビデオやパソコンを道具として、学生を自由な思考に導き、人に伝える方法を考えさせること。先端技術を教える大学での実践です。が、小中高の現場でも十分に生かせる部分があると感じました。                        

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