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「コラム」(佐伯委員)

 教育委員 佐伯 啓子

 「じゆう劇場」(障がいのある人とない人が共に創る劇団)の「銀河鉄道の夜」を昨年鑑賞いたしました。以前からこの劇団については、報道等で少し知っていたのですが、公演に出かけたのは初めてでした。
 小さな会場でしたので、すぐ目の前、手が届きそうな近さで、役者の方が演じられ、観客との一体感がある中で、演劇は進行していきました。初めのうちは、登場人物の設定や演じられる方々の動きの方に注目していて、車イスでの素早い動きに驚いたり、セリフを聞き取ろうとして、ストーリー全体の流れよりも個人に着目していたりと、少し心が離れているような感じだったのですが、しだいに演劇の中に引き込まれ、不思議な銀河鉄道の旅を一緒に体感しているようになっていったのです。
 演出上の工夫なのか、主人公のジョバンニ役は途中で演者が交代されました。登場する人々のセリフは、たいへん多く、それらを全て覚え、役になりきって話すことは、もうそれだけでどんなに大変なことか、しかも感情移入して表現しなければなりません。自然体で演じておられ、観ている私たちの心の中に、すっとセリフが入っていき、物語の展開が待ち遠しくなる、それぐらいにセリフが演じる方の言葉になっていました。
 「まことの幸い」という言葉が心に残りました。それぞれの人にとって「さいわい」の尺度は異なり「まこと」ということを考えるとき、容姿や成績等にとらわれがちな現代の風潮の中で、人として生きる上で大切にしていかなければいけないことを改めて考えるひとときになりました。
 体が不自由な方は、自身が意図したとおりに動けないこともあるでしょうが、全身全霊で演じておられ、観ている私たちに感動を与えてくださいました。

 後日、「まことの幸いとは」と考えたり、宮沢賢治さんの原作を読んだりと、この演劇に触発を受けた私です。「雨ニモマケズ」は、東日本大震災以後、ヨーロッパで行われたチャリティーコンサート会場で朗読され、多くの観客が感動してこの詩を受け止められたことも、原作のあとがきで知りました。ひとつの演劇との出会いから、このように生き方について考えたり、読書へとつながったりしました。何よりも生き生きと演じられる姿が、輝いていたこと、演劇を通して人としての生き方にについて問いかけられていたこと、そういう「じゆう劇場」の皆さまの様子から、「人間っていいな、すごいな」と改めて強く思いました。
 この「じゆう劇場」の皆さまが、フランスで公演されることが決まったということを、新聞報道で知りました。障がいの有無にかかわらず人として認め合い共に生きるという考え方は、欧米の方がすすんでいるように感じています。
  そのような環境にあるフランスで、「じゆう劇場」の皆さまが、演劇の公演を通して出会われる方々と交流されて、新たな刺激を受けられたり、思いを共有できる方々との豊かなひとときを過ごされたりすることは、何ものにも代えがたい貴重な体験になることでしょう。異文化に触れ感性を磨かれ、それぞれの演技や生き方に反映されることと思います。そのような皆さまの演劇にまた出会い、私自身も刺激を受け、自身を振り返る機会にできたらと考えています。

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