私たちが気を付けなければいけないのは新型コロナウイルス感染症だけではありません。
感染症には、私たちの生活に身近な虫がウイルスを媒介するものもあることをご存知ですか?
今回は、日頃の生活で気を付けなければいけない感染症について、鳥取大学医学部医動物学分野の大槻准教授にお話を伺いました。
大槻准教授は、鳥取大学医学部の学生サークル「地域医療研究部」の顧問として、毎年夏に日野郡江府町の集落に泊まり込んで住民の方の健康をサポートする学生たちを指導されています。
江府町にある旧俣野小学校の校舎を拠点にサークル活動を行っておられ、日野郡の地域医療に高い見識を有しておられる先生です。
旧俣野小学校で鳥取大学医学部地域医療研究部の学生を指導する大槻准教授(向かって右端 令和元年8月)
「6月初め、鳥取県で初めてSFTS(重症熱性血小板減少症候群 : severe fever with thrombocytopenia syndrome)の感染が報告されました。
患者さんは、大山町の山中で作業を行った数日後に高熱が出て、検査の結果SFTSへの感染が明らかになったものです。
この病気は、2013年に国内で初めて感染が確認されて以降、西日本で広がり約500件の症例が報告されていました。」
「SFTSは、野生のイノシシやシカがウイルスを持っており、それをマダニが媒介し人に感染させる病気です。
ウイルスを持つ野生動物の血を吸って感染したマダニが、草むらや葉っぱの裏に潜んでいて、人の服に付いて中に潜り込んできます。」
鳥取大学医学部医動物学分野 大槻准教授
「マダニは鋸状の口を人の皮膚に刺して、自分と人を一体化し、1週間に渡り吸血し続けます。皮膚と一体化するので、マダニに刺されたことを気づかない人もいます。
SFTSの潜伏期間は6~9日、その後40℃程度の高熱と嘔吐、下痢などの消化器症状が現れます。
最初は風邪の症状に似ていますが、血小板が減少し出血しやすくなります。」
「致死率は20%と高く、お年寄りの方が感染しやすい傾向がみられます。
現在のところ有効なワクチンや治療薬がなく、対処療法で回復を待ちます。」
咬まれた方の皮膚から採取したマダニ(体長1cmの成ダニ)の標本。
「調査の結果、シカがかなりの割合で抗体を持っていることがわかっています。
また、イヌやネコも感染します。弱っている野良ネコを保護した人が、そのネコに咬まれ発症し亡くなった例もありますし、人から人へ血液や体液を介し感染します。」
「SFTSに感染しないためには、野生動物がいる野山に行くときは、マダニに咬まれないような服装で出かけ、ズボンの裾や靴に虫除けスプレーをかけておくこと、帰ったら服を叩く、お風呂で体をよく洗うなど、注意してください。
また、日常生活において弱っている動物を見つけても、触らないようにしてください。」
大槻先生によると、マダニは野生動物のいるところならどこにでもいる可能性がありますので、畑仕事の際にも熱中症にも注意しながら、肌が出ない長袖長ズボン、できれば長靴がよいそうです。
日野郡でも夏山登山シーズンを迎え、日南町の船通山、日野町の宝仏山、江府町の毛無山などに行かれる方もたくさんいらっしゃると思いますが、登山されるみなさまも、畑仕事をされるみなさまも、マダニ対策をしっかりしてお出かけくださいね。
※全てのマダニがSFTSウイルスを持っているわけではありません。
※大槻先生によりますと、マダニが媒介する病気として、日本紅班熱、ライム病、ツツガ虫が媒介するツツガ虫病などにも注意が必要とのことです。
日野振興局 2020/07/16