唱歌「夏は来ぬ」の二番で田植えの光景が歌われているのをご存じですか。
リトル早乙女たちが裳裾ぬらさぬように半ズボンで玉苗植えた「星形田んぼづくり」もほほえましい話題でした。
でも、記者としてはやはり壮観な「ふつうの田植え」がされた農村風景にやはり、美しい国土、わが県土を感じるのであります(ちなみに記者は県外出身です)。
「6月は田植えで酒が飲めるぞぉ~」という歌があるので、田植えは6月にすると思っていた記者。ですが、標高の高い日野郡は気温が低く、秋が来るのも早いので、苗が育つのを待って田植えは4月下旬から5月中旬までに終えられるそうです。駆け足ですね~!
育った苗を積んだトラック
今回取材に伺ったのは、担い手企業・株式会社優裁さんの田んぼ。この「担い手」とは、持ち主の高齢化などで耕作されない農地を引き受けて農業をする人や団体のことです。
小雨降るその朝…(日野町本郷にて)
田植えとは、田の持ち主の農家だけがするものだとのイメージがありませんでしたか?
でも実は、機械化が進む昭和40年代後半ごろまでは近隣の農村や季節労働者の協力で行われていました。冒頭でも登場した「早乙女」というのは、田植えをする女性をさす言葉でもあります。「田の持ち主以外が田植えをする」というのは、今に始まったことではないのです。
昔は全国各地で美しく着飾った早乙女さんが歌を歌いながらその年最初の田植えをする行事が行われていました。農家の人たちはこれから始まる過酷な労働の苦労を和らげ、少しでも楽しもうとする目的があったのでしょう。
そして何より、田植えの始まりは”祝うほどめでたいこと”だったのではないでしょうか。
田植え機がどんぶらこ
「優裁」の松本社長は、「そうですよ、最初の田植えは新年を迎えるような気持ちです」と言われるかと思いきや、「恐ろしい季節の始まりだ…と憂うつになります。ゴールデンウイークなんてないも同然ですよ!」と“真剣な苦笑い”。
1台の田植え機で(農機具はとても高額です)、たくさんの田植えをするので、社員たちで作業を分担し、会社総出で働いても田植えは6月半ばまでかかってしまうそうです。すると今度は畦の草刈りが追いつかない…たしかに頭が痛くなりますね!
(ちなみに、この草刈りは一部、「農福連携」として、近くの作業所に依頼されています)
←水田に向かって走る田植え機
そんなことには考えが及ばなかった…記者は文学的な目線でしか景色を見られていませんでしたね。苦笑
そういえば、主演女優のシルヴァーナ・マンガーノの健康美がまぶしかったイタリア映画「にがい米」も早乙女を描いたものでした。この作品を見て、記者は「イタリアにも田植えの季節労働があるのか~」と思ったものですが、今回の取材を経て、田植えは洋の東西を問わず多くの人手を必要とする作業なのだと納得しました…。
でも松本社長は、「種をまき芽が出たら嬉しいもの。それに田植えというものは『1円が1万円になる仕事』(苗1本から大きな利益が生まれる、という意味)ですから、やっぱりおもしろいな、と思いますよ」とも語ります。
アルバイトの若い人も「大変だけれど、やっぱり『この仕事、いいな』とも思いますね」と言って、田植え機まで走って苗箱を届けに行きました。1分も無駄にできないぞ~!
下の写真は、優裁の育てている苗箱です。さわってみると柔らかくも鋭い。しかし、青々と伸びたそれをひとつかみすると、まさに「玉苗」だと愛おしさを感じるから不思議です。
われわれが食べる米粒は、稲の「種」(右の写真の根元)。この一つの種が秋には実って増え、こうべを垂れ、稲穂となるのです。
農閑期になり乾いて色も薄くなった土を耕すと茶色く柔らかくなってカエルがとびだし、それを鷺がついばんで歩く。春が訪れると田に水が張られ、そこへ青空や山、鳥が映り始める。それはかつて、歌わぬ早乙女は半役、と言われた明るく美しい田植えの季節。
(「歌わぬ…」出典:日南町史)
里より「ひと足も、ふた足も早く夏は来ぬ」とたしかに感じる心躍る季節の始まりです。それは急に暑くなったからではなく、ね!
徐々に光が射してきた…花曇りとはこのことなり。
【おまけ】
記者が田植え機を運転させてもらって植えた苗。ガタガタです…田植え機の操作は難しい!
日野振興局 2023/05/31