鳥取県教育委員会委員 坂本トヨ子
仕事で京都へ行くことがあり、訪問先から帰るタクシーを探して歩いていたところ、偶然「永観堂」と書かれた看板を見つけ、境内に入ってみることにしました。
紅葉の名所として、秋には雑誌に載せられる有名なお寺ですが、色づきには少し早い為、人影も少なく、ひとり静かに拝観することが出来たのです。
築400年余りの阿弥陀堂で、ほかの予備知識もなく、古刹建築の素晴らしさを眺めながらゆっくり巡っておりましたところ、薄暗いお部屋で「見返り阿弥陀」という小さなご本尊に、引き寄せられるように近づいておりました。
そこで振り向いた先に書かれた言葉は
遅れる者を待つ姿勢
自分自身をかえりみる姿勢
愛や情けをかける姿勢
思いやり深くまわりをみつめる姿勢
人々とともに正しく前へ進む姿勢
人生を振り返る区切りの時期を過ぎ、自分の心に色々な意味で鐘を鳴らされ、背中を押されるような言葉でした。
今、社会の価値観は多様化するばかりで、一員として大切なものを見失いがちになる時があります。迷った時には読んでいる本の一節から答えを見つけることもありますが、時には立ち止まり、「見返り阿弥陀」のような名言から、自分自身に与えられた役割に気付かされるのも良いものです。
教育について考えますと、小学校で宮沢賢治の「アメニモマケズ・・・ソウイウモノニワタシハナリタイ」により、使命感を覚えて育った大人たちが、年を重ね、今の社会の中心的存在となっておられます。リーダーとして様々な経験を活かされ、「見返り阿弥陀」の慈悲深さで、これからの子どもたちを優しく育んでくださると、社会全体の幸せにつながるのだと思いました。
多くの大人たちが、心身共に健康で、益々元気に活躍されることを願っております。