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 令和3年6月28日付けで請求のあった平成31(令和元年)度政務活動費に関する住民監査請求(鳥取県職員措置請求)については、以下のとおり地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条に規定する住民監査請求の要件を欠くと認め、令和3年7月19日付けで却下しました。
  

1 請求の主旨(請求人の主張)

 平成31年(令和元年)度分政務活動費収支活動報告書、領収書等関係書類中に、地方自治法第100条第14項から第16項に基づく「鳥取県政務活動費交付条例」及び「鳥取県政務活動費交付条例施行規程」、「政務活動費の使途及び支出手続きに関する指針」に反する不当な財務会計上の行為に該当すると思料する支出が見受けられた。
 議員は、政務活動費の使途として不適正なものについては、県に返還する義務がある。
 また、鳥取県議会議長は、これらの議員に対してその返還請求権(不当利得返還請求権)を有しているところ、その返還請求を怠っている。
   
(措置請求)
 これは法第242条第1項の「違法若しくは不当に財産の管理を怠る事実」に該当するものであり、速やかに、当該議員に対し、利息を付した形で返還請求を行い、その怠る事実が是正されるべきである。よって、 鳥取県議会事務局(知事)及び鳥取県議会議長は、本県請求に係る議員の違法若しくは不当な公金の支出を是正し、県は利息を付した形で返還請求をすべきである。

(請求の理由)
 書籍の購入について、一般的、外形的若しくは社会通念上、いわゆる大衆娯楽作品であるといえ、指針上、政務活動に不要なものであると解するべきである。また、鳥取県行政にどう役立てるのか、疎明、証明されていない。  

  

2 住民訴訟としての適格性について

<結 論>

 本監査請求は、政務調査費の支出が違法若しくは不当であると疑うに足りる外形的な事実を示すことなく、請求人独自の観点で対象となる行為を摘示していることから、却下する。

<却下の理由>

  請求人は、全項目に共通して、及び書籍の購入に関して個別具体的に定められた「政務活動費の使途及び支出手続きに関する指針」に沿って、違法性若しくは不当性があると疑うに足りる具体的な事実を摘示されているとはいえず、請求人の主張は住民監査請求としての適格性の要件を欠くものと判断し、請求を却下する。
  

[実質的要件審査の概要]

1 政務活動費の監査請求の判断基準

(1)政務活動費の使途の適否の基準

ア 最高裁判所判決では、「政務調査費の支出に使途制限違反があることが収支報告書等の記載から明らかにうかがわれるような場合を除き、監査委員を含め区の執行機関が、実際に行われた政務調査活動の具体的な目的や内容等に立ち入ってその使途制限適合性を審査することを予定していないと解される。(平成21年12月17日)」及び「議員の調査研究活動は多岐にわたり、個々の経費の支出がこれに必要かどうかについては議員の合理的判断にゆだねられる部分があることも確かである。(平成22年3月23日)」と判示されている。
 このことは、政務活動費が、明らかに外形的に違法・不当と疑われる場合は、監査の対象とすべきで、そうでない場合には、個々の経費の必要性の判断が議員の合理的判断にゆだねられており、監査委員が具体的な目的や内容等に立ち入って違法・不当の審査をすることを予定していないと解される。

イ また、広島高等裁判所判決では「政務調査費の支出が本件ガイドラインに規定された留意事項等を遵守していないという外形的事実を主張立証した場合には、被告側がこれを覆す適切な立証を行わない限り、当該支出が本件使途基準に違反することが事実上推定されるべきである。(平成30年11月27日)」と判示されており、政務活動費の使途の適否判断は、ガイドラインに違反すると疑うに足りる外形的事実の主張立証を前提にされたものと解される。

ウ 政務活動費については、地方自治法(以下「法」という。)第100条第14項において「政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない。」と規定されている。
 この規定に基づき、本県では鳥取県政務活動費交付条例(以下「条例」という。)が定められている。
   条例第4条では、第1項において、使途について、「県政に関する調査研究その他議会の審議能力の強化に資するため必要な経費であって、別表に定めるものに充てなければならない。」と抽象的に目的を規定し、別表で対象経費の大要を定めている。
   また、同条第2項においては、議長が、使途及び支出手続に関する指針を定めるものとされているところであり、第3項では、議員に対する指針の尊重義務が定められている。本県では、条例第4条第2項の規定により、「政務活動費の使途及び支出手続きに関する指針」(以下「指針」という。)が定められている。
 したがって、議員の政務活動費が使途基準に従い、外形的に違法又は不当かどうかは指針の規定に基づいて行わなければならない。
 なお、政務活動費に係る使途基準の項目別経費が例示されている場合であっても、抽象的・概念的に規定されていることにほかならないため、例示以外の記載内容をアに引用した最高裁判所判決の趣旨に反して、類推解釈又は拡大解釈により適用することはできない。
 また、従来から指針は政務活動費の透明性を高めるため改善が図られており、平成31年(令和元年)度の政務活動費の使途の判断基準としては、当然のことながら平成31年(令和元年)度に適用されていた指針を用いることとなる。

 

(2)住民監査請求としての摘示の要件

 法第242条に定める住民監査請求は、当該地方公共団体の執行機関又は職員による違法又は不当な財務会計上の行為若しくは怠る事実があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し監査を求め、必要な措置を講ずべきことを請求できる権能を認めたものである。
 なお、最高裁判所判決においては、「監査請求の対象が(中略)具体的に摘示されていないと認められるときは、当該監査請求は、請求の特定を欠くものとして不適法であり、(中略)監査をする義務を負わない。(平成2年6月5日)」と判示されている。
   

(3)本件請求への適用

 以上のことから、本件請求に対しては、次のとおり適用することとする。

ア 指針における使途の基本的な考え方及び主な経費に係わる留意事項等について、具体的に規定されている場合において、請求人が違法性若しくは不当性があると疑うに足りる外形的な事実を摘示している事項については、監査を実施し、その他の場合は却下する。
イ 指針における使途の基本的な考え方及び主な経費に係わる留意事項等が抽象的・概念的に示されている事項については、監査の対象としえないため却下する。

参考1
・最高裁判所判決(平成21年12月17日)
 政務調査費条例及び政務調査費規程の定め並びにそれらの趣旨に照らすと、政務調査費条例は、政務調査費の支出に使途制限違反があることが収支報告書等の記載から明らかにうかがわれるような場合を除き、監査委員を含め区の執行機関が、実際に行われた政務調査活動の具体的な目的や内容等に立ち入ってその使途制限適合性を審査することを予定していないと解される。

参考2
・最高裁判所判決(平成22年3月23日)
 議員の調査研究活動は多岐にわたり、個々の経費の支出がこれに必要かどうかについては議員の合理的判断にゆだねられる部分があることも確かである。

参考3
・広島高等裁判所判決(平成30年11月27日)
 本件ガイドラインにおいて使途の透明性に配慮した留意事項が定められていることからすると、原告らにおいて、収支報告書に記載された政務調査費の支出が本件ガイドラインに規定された留意事項等を遵守していないという外形的事実を主張立証した場合には、被告側がこれを覆す適切な立証を行わない限り、当該支出が本件使途基準に違反することが事実上推定されるべきである。 

参考4
・最高裁判所判決(平成2年6月5日)
 住民監査請求においては、対象とする当該行為等を監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく、当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要し、(中略)、監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載、監査請求人が提出したその他の資料等を総合しても、監査請求の対象が右の程度に具体的に摘示されていないと認められるときは、当該監査請求は、請求の特定を欠くものとして不適法であり、監査委員は右請求について監査をする義務を負わないものといわなければならない。

2 住民監査請求としての適格性について

(1)請求期間の適法性について

 住民監査請求は法第242条第2項により「当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」とされている。本請求に関し請求人がその事実を知ることができたのは鳥取県議会のHPに掲載された令和2年8月3日以降であることが確認できたことにより、同条同項ただし書きの適用により請求期間は適法である。

(2)「指針」に基づく適格性について

ア 「使途の基本的な考え方」については、次のとおり定められている。

 政務活動費は、議会議員の県政に関する調査研究その他議会の審議能力の強化に要する経費に対して、条例に定める使途に従い、適切に充当されなければならない。この指針は、交付条例第4条第2項に基づき定めるものであり、議員には、同条第3項の規定によりこの指針を尊重して、政務活動費の適切な執行を行うこと。
 しかし、議員が行う活動は、政務活動に加えて、議会活動、政党活動、後援会活動等その内容は様々であり、一つの活動に政務活動と他の活動が混在する場合には、これらの活動を区別することが必要である。
 このような場合に、その活動に要した経費を政務活動費に充当するときは、政務活動との間に合理的関連性が認められる実態に応じた按分により充当することとし、その際の按分率は、原則として議員自らがその活動内容や実績により、算定し明らかにすること。
 ・確認された事実
  使途についての基本的な考え方であり、書籍の購入に関する具体的な基準は規定されていない。

 

イ 「政務活動費の使途、共通項目、主な経費に係わる留意事項」については、次のとおり定められている。

【対象経費】
(1)政務活動費の対象は、議員が行った政務活動に使用した経費の実費を原則とすること。
(2)政務活動費は、当該年度内に議員が行った政務活動に必要な経費に対して支給するものであり、対象期間外に行った経費に充てることはできない。
   ただし、光熱水費、通信料(電話、インターネット等)は支出時点を基準として、支払日の属する年度に計上することができる。ただし、改選期については、任期中の使用分だけを計上することとする。
(3)関連企業等への委託経費を充当することは適当ではない。

【経費の按分】
(1)当該経費について、政務活動とそれ以外の活動が混在する場合には、政務活動との間に合理的関連性を有する部分の割合に応じて按分すること。
   そして上記方法により按分した場合は、議員において按分率の積算根拠を客観的資料により説明できるようにしておく必要がある。
  按分後の円未満の端数は、切り捨てること。
(2)複数年分の経費の一括払いの場合、経費を年度ごとに按分の上、各年度の政務活動費に計上すること。(初年度に一括計上しないこと。)

【項目別経費の例示】
 使途基準の項目別経費の例示は別紙のとおりである。

 ・確認された事実
  共通項目においては、書籍の購入に関する固有の留意事項はない。

 
ウ 「政務活動費の使途、資料購入費」では、次のとおり定められている。

【内容】
 図書、資料等の購入に要する経費(書籍購入費、新聞雑誌購読料など)
【主な経費に係わる留意事項】
  (1)領収書による実費とすること。
  (2)政務活動に必要なものに限るが、実績等を考慮の上、経費を按分し、証拠書類に按分の根拠を明示すること。

 ・確認された事実
  書籍の購入について、定められている。
  (1)については、領収書の写しの添付が必要であることが、具体的に示されている。
  (2)については、具体的な基準は定められていない。

エ 「政務活動費に係る使途基準の項目別経費の例示、資料購入費」では、次のとおり定められている。

使途:図書、資料等の購入に要する経費
【内容】
 ○議員が行う調査研究、議会活動に必要な図書、資料等の購入、借上に必要な経費
【具体的な経費(例示)】
 書籍購入費、定期刊行物購入費、新聞購読料、電子書籍等閲覧利用料、ビデオテープ・CD-ROM等購入費、研修会等への参加で要した資料代

・確認された事実
  書籍の購入について、目的と具体的な例示が定められている。

3 結論

 以上の点から、請求人は、全項目に共通して、及び書籍の購入に関して個別具体的に定められた上記の指針に沿って、違法性若しくは不当性があると疑うに足りる具体的な事実を摘示されているとはいえず、請求人の主張は住民監査請求としての適格性の要件を欠くものと判断し、請求を却下する。

4 監査委員の除斥

 本件請求において、監査委員福田俊史は、法第199条の2の規定により関与しなかった。

[参考]

 住民監査請求制度の概要 (pdf:58KB)

  

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