本県では、大正6(1917)年「細民部落改善指導方針」という訓令を出し、いわゆる「地方改善」のための助成を始め、昭和24(1949)年戦後初めて同和対策予算を計上した。そして、昭和42(1967)年10月に厚生部厚生援護課に同和対策係を設置した。これは、昭和40(1965)年の同対審答申により同和行政の具体策を強力かつ速やかに実施に移すことが求められたことや、県下の差別発言事件の発生を契機に行政組織を整備したもので、その後昭和45(1970)年4月厚生部同和対策課に再編、昭和48(1973)年4月に総務部へ移管した。また、教育委員会においては、昭和47(1972)年に同和教育室を設置し、昭和50(1975)年に同和教育課に再編し、以来今日まで本県は同和行政に積極的に取り組んできた。
本県の今後の基本的方向を考えるにあたり、平成8(1996)年に国の地域改善対策協議会が行った最終の意見具申(地対協意見具申)をみると、「同和問題に対する基本認識」の中で「同和問題は多くの人々の努力によって、解決に向けて進んでいるものの、残念ながら依然として我が国における重要な課題と言わざるを得ない。」「昭和40年の同和対策審議会答申(同対審答申)の精神を踏まえて、今後とも、国や地方公共団体はもとより、国民一人一人が同和問題の解決に向けて主体的に努力していかなければならない。」「同和問題は、過去の課題ではない。この問題の解決に向けた今後の取組みを人権にかかわるあらゆる問題の解決につなげていくという、広がりをもった現実の課題である。」と指摘し、「同和問題解決への取組みの経緯と現状」の中で「同和問題の解決に向けた今後の主要な課題は依然として存在している差別意識の解消、人権侵害による被害の救済等の対応、教育、就労、産業等の面でなお存在している較差の是正、差別意識を生む新たな要因を克服するための施策の適正化であると考えられる。」と指摘していることを受け、これらを本県の今後の基本的方向を検討する基礎とした。
また、地方分権の進む中、従来にも増して地方自治体の主体性が求められることから、本県の実態を把握するため、平成12(2000)年に「同和地区実態把握等調査」及び「同和問題についての県民意識調査」を実施した。
この結果をみると、同和地区の実態は、道路整備事業など住環境面を中心に改善されてきているが、「教育、就労、産業等」の面でなお、解決すべき課題が残っていること、また、県民意識調査の結果からも結婚差別など差別意識が現存し、差別発言や差別落書きなどの差別事象も依然発生していることなど、いまだ部落差別は解消されていない状況にあることは明らかである。
このことは、平成14(2002)年3月末をもって「特別措置法」が失効を迎えるが、「法」がなくなっても、部落差別が消えてなくなるものではないということを示している。
したがって、本県においては、「特別措置法」という「法」を根拠とした同和行政から、分権の時代にふさわしい地域の実情と課題に対応した、部落差別の実態を根拠とする同和行政を、今後推進していかなければならない。
そこで、本県の今後の施策を推進するにあたっては、平成8(1996)年の「地対協意見具申」で述べられているとおり、特別対策の終了、すなわち一般対策への移行が、同和問題の早期解決を目指す取組みの放棄を意味するものではないこと、また、一般対策移行後は、従来にも増して、行政が基本的人権の尊重という目標をしっかりと見据え、一部に立ち遅れのあることも視野に入れながら、地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努め、真摯に施策を実施していくという認識で取り組まなければならない。
したがって、同和行政とは、部落差別をなくするためのいっさいの行政を意味していることから、今後引き続き「特別対策」で対応するものも、部落差別の解決のために「一般施策」を活用するものも、いずれも同和行政であり、同和対策事業となる。
さらに、「地対協意見具申」で述べられているとおり、「特別措置法」にもとづく「特別措置」から「一般施策」の活用へと移行する際は、既存の一般対策の状況、なお残されている課題の状況、地方公共団体の財政状況等を踏まえた上で、これまでの施策の成果が損なわれるなどの支障が生ずることのないよう配慮しながら実施すべきと考える。
以上のことから、部落解放同盟鳥取県連合会の協力のもと差別の実態や残された課題を整理し、各種施策の方向性を検討し、「鳥取県同和対策推進協議会」の協議を経て、出張説明会や「人権尊重の社会づくり協議会」の開催、2度にわたるパブリックコメントの結果を踏まえ、「鳥取県同和対策推進協議会」の最終協議の結果、本県においては『差別があるかぎり同和問題解決のために必要な施策について、適切に対応していく』こととし、今後も同和行政を積極的に推進していくものである。
また、今後の同和行政の推進にあたっては、平成8(1996)年に策定した「人権尊重の社会づくり条例」や、この条例に基づき平成9(1997)年に策定した「人権施策基本方針」、さらにこの「人権施策基本方針」を補完するため平成11(1999)年に策定した「人権教育のための国連10年鳥取県行動計画」、並びに国が平成12(2000)年に施行した「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」や、これに基づき国が現在作成中の「基本計画」、さらに人権侵害に対する人権救済制度の創設に向けた動向等も踏まえながら推進していかなければならない。
同和行政は人権行政の原点であり、重要な柱である。
「人権」の世紀といわれる21世紀、人権尊重の社会づくりは本県においても重要な課題の一つである。
本県では、今後、これまでの同和行政の成果を踏まえ、これをさまざまな差別問題に対する人権行政へと発展させ、一層の推進を図るものである。