古屋のもり
むかしむかし、大山の麓で爺さまと婆さまが馬を飼っていました。
その馬に子馬が生まれた夜、子馬をねらって泥棒と狼が家に忍び込んできました。双方とも爺さまと婆さまが寝静まるのを待ちながら、こんな話し声を耳にしました。
「婆さんや、今夜あたり一番きょーてーもんがござおりそうじゃなあ。」
「ええ、ええ、泥棒よりも、狼よりも、古屋のもりほどきょーてーもんはあーしませんけんなあ。」
狼も泥棒もぞっとしました。その時、爺さまと婆さまの頭に、ぽつん、と雨つぶがかかり、「そらきたで!」
と二人とも立ちあがりました。
そのとたんに狼は走り出し、泥棒は子馬が逃げ出したと思い込んで狼の背中に飛び乗りました。狼は恐い「古屋のもり」に襲われたと思い込み全速力で走りました。
夜が明けかけて、ようやく泥棒は子馬ではなく狼の背中に乗っていたことがわかり、運良く通りかかった松の根元の深い穴に飛び降りました。
山に帰った狼は「古屋のもり」というこの世で一番恐ろしいものにとりつかれて一晩中走り回ったことを山の仲間に話しました。山一番の知恵者の猿が穴に落ちた「古屋のもり」が何者か探検に行くことになりました。
猿は昔は長かったしっぽを穴の中にたらして「古屋のもり」につかまらせました。どうしても這い上がれなかった泥棒は喜んでぶらさがり、猿は松の木にしがみついて、しっぽの痛さに耐えながら顔を真っ赤にしてふんばりました。しかしとうとう重さに耐え切れず、しっぽはぽつんと切れてしまいました。
この時から猿のしっぽは短くなり、顔とおしりは真っ赤になってしまったということです。その後「古屋のもり」はうまく穴から逃げられたのでしょうか。