防災・危機管理情報


調査・研究(木製品)

君の名は?-変わり種の形代(かたしろ)−

 現在、青谷横木遺跡から出土した木製品の保存処理や調査研究の優先順位を決めるためのトリアージ作業を行っています。奈良・平安時代の木製祭祀具が多く、その中でも人形や馬形といった人や動物の形を模した形代が中心的なものになります。特に馬形の点数が多い点はこの遺跡の特徴です。また数は少ないものの、馬だけでなく、新年早々にお伝えした牛と考えられるもの(1月3日Facebook記事)や、蛇のようなものもあります。

 そんな中、今年度のトリアージ作業中に「これは一体…?」とも言うべき妙な形代が現れました。今まで知られている馬形などとは異なり、頭(左側)は丸く、短い前足と後足が表現されています。お腹に当たる部分には、馬形と同様に棒が差し込まれた跡があるので、同じように地面に突き刺して使用されたと思われます。

 調べた限り、似たような例がないのですが、直感的に連想したのは、渓流の王者「オオサンショウウオ」です。オオサンショウウオは国の特別天然記念物で、鳥取県は全国でも生息数の多い地域として知られています。古代においても珍獣として崇められたのかもしれません。皆さんはどう思いますか?

謎の形代

通常の馬形

オオサンショウウオ

(鳥取県教育委員会2007『特別天然記念物 オオサンショウウオ調査事業報告書』より転載)

[令和3年3月7日掲載]


PEGによる木製品の保存処理が進行中です

 令和2年の春に、「センター春の風物詩」として、PEG(ポリエチレングリコール)による保存処理を行った木製品の取り上げと、新たに木製品を浸け込む作業を紹介しました(HPリンク)。あれから1か月ごとに10%ずつPEGの濃度を上げていき、現在は90%への引き上げの最中です。今回は先日行った濃度引き上げ作業の様子を紹介します。

 PEGは医薬品や化粧品など様々な分野で使われていますが、用途によって液状・ゲル状・固形など、様々な種類のものがあります。埋蔵文化財の保存処理に使われるPEGは常温では乾いたフレーク状ですが(写真1)、加熱するとロウのように溶けて液体になります。

写真1 PEGは手で触るとサラサラしています。

 これを60℃に加熱した含浸タンクの中に投入します。(写真2)このタンクは4000リットルの容積があり、濃度を10%引き上げるには400kgものPEGを投入しなければなりません。1袋20kgPEG20袋分投入するのですから、大変な重労働です。

写真2 PEGをタンクの中に投入する様子です。

 液面に山盛りになって浮かんでいるPEGを液の中にかき混ぜて溶かしていきます。(写真3)これをしっかりやっておかないと、塊のまま溶けずにタンクの底に沈殿してしまいます。PEGを投入すると液温が10くらい下がってしまうので、このあとは蓋を閉めて加熱を続けます。

写真3 PEGをかき混ぜて液の中に溶かしている様子です。

 液温が上昇して、投入したPEGが溶けたことを確認したら、今度はタンクの蓋を少し開けて、水分を蒸発させることによって目標の濃度に近づけていきます。濃度の確認は、サンプルをホットプレートで加熱して水分を蒸発させ、その前後の重量比を計算して行います(写真4)。目標濃度に達したら、蓋を閉めて濃度を維持しながら約1か月間含浸を続けます。

写真4 サンプルのPEGを加熱して水分を蒸発させます。

 この後もひと月ごとに濃度を引き上げていき、順調にいけば3月末には含浸が完了する予定です。そうすればまた、センター春の風物詩である木製品の取り上げ作業が始まります。

[令和3年2月掲載]


「センター春の風物詩」

 令和元年5月にフェイスブックで「一番過酷な作業」(写真(1))と紹介したPEG(ポリエチレングリコール)による保存処理をした木製品の取り上げですが、当初予定より遅れたものの、つい先日その作業を青谷上寺地遺跡整備室と合同で行いました(写真(2)・(3))。

 では、なぜPEG含浸の木製品の取り上げは過酷なのでしょうか???

 その過酷な理由その1です。PEG溶液は60と熱く、水槽の周辺は蒸気で蒸し暑い上、水濡れと汚れ防止のために合羽と手袋を着用して作業を行うため、衣服の下は汗だくです。例年、熱中症にならないように注意を払いながら作業を行っていますが、今年は新型コロナウイルスに感染しないようマスクも着用していたため、暑さと息苦しさでさらに過酷な状況となりました。

 過酷な理由その2PEGに含浸した木製品は水浸け時のものと比較すると、水より重いPEGが木製品の中に浸透することによってさらに重くなります。しかも取り上げてすぐの木製品の表面にはPEG溶液が付着しているため、ぬるぬるです。水槽の中からぬるぬるした重い木製品を取り上げるのは、非常に疲れます。もちろん、手を滑らせて木製品が破損しないよう慎重な作業が求められます。

PEGに含浸した木製品の取り上げ作業は、緊張感を保ちながらも、暑さと重さに耐える、精神的にも肉体的にも過酷な業務なのです。

 さて、そんな困難をものともせず取り上げた木製品は、高住井手添遺跡(たかずみいでぞえいせき)と青谷上寺地遺跡(あおやかみじちいせき)から出土した木製品です。長さが4mを超えるような建築材や杭、矢板といった大型品もあれば、斎串(いぐし)や馬形といった木製祭祀具のような小型品まで多種多様あり、しかも大量でした(写真(4)・(5))。これらの保存処理が終了した木製品については今後も調査研究を進め、また新たな成果がみつかったおりには、ホームページ等でお知らせする予定にしています。

 取り上げが無事に終りほっとしたのも束の間、その後新たに保存処理をする木製品を多量に浸け込みました(写真(6))。また来年の春には、過酷な作業が待っています。

写真(1) 昨年度の作業風景です。

(2019年5月1日フェイスブック記事)

 写真(2) 木製品を取り上げている様子です。

写真(3) 木製品の表面についた余分なPEGを60℃の熱湯で洗います。

 写真(4) 建築部材など大型品を乾燥さ せています。

写真(5) 小型の木製品を乾燥させています。 

写真(6) 保存処理を行う木製品を浸け込みました。

  今年1年かけて、PEGを含浸していきます

[令和2年5月掲載]

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 久松山地域は戦国時代以降鳥取城が築かれ、鳥取藩32万石の中心地でした。現在でもこの地域は県庁があり、行政の中心地となっています。

 しかし、戦国時代から遡ること約800年前の奈良時代、県庁から4キロほど離れたこの国府町に国史跡因幡国庁(現在の県庁にあたるもの)がありました。今ではひっそりとした田園地帯ですが、因幡三山(甑山(こしきやま)、今木山(いまきやま)、面影山(おもかげやま))に囲まれ、当時の面影を残す万葉の歴史と古代の出土品にあふれた万葉の里となっています。
 この歴史豊かな万葉の里の一角に埋蔵文化財センターはあります。


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