【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
日本では「2025年に65歳以上の5人に1人が認知症になる」と推定されています。認知症になっても安心して住み慣れた地域で暮らせる仕組みを整えておくことに加え、認知症になる人をできるだけ少なくする取り組みも大切です。
近年では認知症の予防に関する研究が進み、どのような要因があると認知症になりやすいかが分かってきています。そのような要因はいくつも見つかっているのですが、科学的に「これは確かだろう」と考えられている要因が12個あります。
ここでは、認知症になりやすくなる12個の要因を「認知症発症への影響が強い順/対策しやすい順」にご紹介します。
認知症リスク(1) 難聴
意外かもしれませんが、現在のところ認知症の発症に最も大きく影響していると考えられているのは「難聴」です。特に中年期から耳の聞こえが悪くなってきた人は要注意。放置せずに耳鼻科で診てもらいましょう。補聴器などで聴力を維持することが大切です。
認知症リスク(2) 教育歴(知的好奇心)の低さ
若いうちの「教育歴の低さ」(=義務教育を受けていない)は認知症の発症に大きく関わる要因ですが、この記事をお読みの方は問題ないでしょう。年を取ってからも様々なことに興味を持ち、新たなことにチャレンジする「知的好奇心」が、認知機能を保つ秘訣です。
認知症リスク(3) 喫煙
「喫煙」はがんなどの病気だけでなく、認知症の大きな要因にもなります。「受動喫煙」も同様か、それ以上の悪影響になると言われています。たばこの化学物質が脳の神経細胞にダメージを与え、血管を傷つけることにより、認知症を引き起こすおそれがあります。認知症予防に禁煙・受動喫煙の対策は欠かせません。
認知症リスク(4) 社会的孤立
「社会的孤立」、すなわち外出やお喋りをする機会が少なく、地域や家庭内での役割がなく、引きこもったような生活をしていると、脳が活性化されないので認知症になりやすくなります。おっくうがらずに外に出て、他者とコミュニケーションを取りましょう。
認知症リスク(5) 抑うつ
気分が落ち込み、やる気がなくなる状態が「抑うつ」です。抑うつになると、外出したり、趣味を楽しんだり、他者とコミュニケーションを取る気力がなくなり、認知症予防によい生活が送れなくなってしまいます。抑うつ状態が続くようなら医師に相談してください。
認知症リスク(6) 頭部外傷
交通事故や激しいスポーツなどによる「頭部外傷」(脳震盪、頭蓋骨折など)も認知症の要因です。車に乗るときはシートベルトを付け、バイクや自転車ではヘルメットを被って、安全運転を心がけることも認知症予防の一つです。
認知症リスク(7) 運動不足
「運動不足」が認知機能を低下させることを知っている方は多いのではないでしょうか。運動は脳を活性化させるとともに、脳の神経細胞を元気にする物質も出て、認知機能を高めると言われています。有酸素運動と筋トレの両方をバランスよく行いましょう。
認知症リスク(8) 高血圧
「高血圧」は、脳の血管が破れて出血する脳出血、脳の血管が詰まる脳梗塞を引き起こす大きな要因の一つです。脳卒中(脳出血、脳梗塞)を発症した後に、認知症が起こることがあります。血圧が高めの方は減塩を心がけ、高血圧の薬を処方されている人はきちんと服薬することが、認知症予防につながります。
認知症リスク(9)
大気汚染
窒素酸化物(NOx)や微小粒子状物質(PM2.5)による「大気汚染」も認知症に良くないと指摘されていますが、日本、特に自然豊かな鳥取県ではさほど気にする必要はないでしょう。強いて言えば、黄砂が多い日は長時間の外出を控えた方がいいかもしれません。
認知症リスク(10) 過剰飲酒
お酒の飲み過ぎ「過剰飲酒」も認知症を引き起こす要因です。適切な飲酒量は男性では純アルコール20g(日本酒なら1合、ビールなら500mL、ワインなら200mL)で、女性は10gが目安です。お酒だけ飲むのではなく食事(栄養)も一緒に摂りましょう。
認知症リスク(11) 肥満
中年期の「肥満」も認知症になりやすくなる要因です。肥満(内臓脂肪型肥満)はメタボリックシンドロームの要素であり、放置すると脳卒中や心臓病、腎不全、失明など怖い病気を引き起こします。生活習慣(食事、運動)を見直し、肥満解消に努めてください。なお、高齢期における肥満はそこまで問題となりません(むしろ痩せ・低栄養の方が問題になる)ので、ダイエットの必要はありません。
認知症リスク(12) 糖尿病
「糖尿病」は以前から脳卒中を引き起こして血管性認知症につながることが知られていましたが、近年ではアルツハイマー型認知症の一因でもあることがわかってきました。糖尿病は様々な合併症を引き起こしますが、その中に認知症もあることを知っておいてください。
あなたの認知症リスクをチェックしてみませんか?
ここまで、12個の「認知症になりやすい要因」について簡単にご紹介しました。あなたに当てはまるものはありましたか? 今後の記事で、それぞれの要因について詳しい説明や具体的な対策についてご紹介する予定です。
なお、鳥取県では以前より「とっとり方式認知症予防プログラム」を開発し、県内および県外における認知症予防を推進してきました。さらに、2022年9月からは認知症予防を意識した健康づくりの参考にしてもらうことを目的に公式LINEを設置し、定期的に認知症予防に関する情報提供を行うとともに、認知症リスクを簡易的にチェックする機能も提供しています。ぜひ友だち登録してくださいね!
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<参考文献>
Livingston G, et al. : Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet 2020; 396(10248): 413-446.
浦上克哉:科学的に正しい認知症予防講義. 翔泳社, 2021