【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
「運動が認知症予防に良い」ということは多くの人がご存知だと思います。この記事を読んでくださっている方は、日頃からなるべく運動するように心がけてくださっていると存じます。
⇒詳しくは記事『頭を使いながら運動すると、認知症のよい予防になる』をご覧ください
では、その逆である「座りっぱなしの生活」はどうでしょうか? いかにも身体に良くなさそうですよね。実際に、1日の座っている時間が長いほど寿命が短いという研究結果が海外からも日本からも出ています。
しかも、座りっぱなしの生活は認知症のリスクを上げるという報告もいくつか出ていますし、座りっぱなしの生活による寿命への悪影響は、運動時間を増やしたとしても帳消しにはできないとも言われています。
認知症予防のためには運動を心がけるとともに、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する必要があるのですね。
座りっぱなしの時間=座位行動を減らしましょう
寿命にも認知症予防にも良くない「座りっぱなし」状態のことを、今後は「座位行動」と呼ぶことが増えてくるかもしれません。
現在、厚生労働省で10年ぶりに身体活動や運動の指針の見直しが行われており、2024年度より新しいガイドに刷新されます。そのガイド案に新たに「座位行動」という言葉が加わる予定です。
「座位行動」とは、座ったり寝転んだりして過ごすこと(例:デスクワーク、テレビやスマートフォンを見ること、車や電車・バス移動で座っているなど)を指します。
あなたの1日の活動時間(寝ている時間を除く)は、下図に示されている「運動」「生活活動」「座位行動」のいずれかに分類できるはずですが、いかがでしょうか。
厚生労働省 健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂 に関する検討会:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 (案)より
日本人の約3割は平日1日に8時間以上座っており、世界と比較しても座位時間が長いという統計が出ています。みんなで意識改革をしていく必要があるかもしれません。
座位行動の時間をなるべく減らすことが重要
厚生労働省の新たな身体活動のガイドでは、1日のうちで座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように推奨する方向で検討されています。立ち上がることが困難な人でも、じっとしている時間が長くなりすぎないように少しでも身体を動かすよう記載されています。
厚生労働省 健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂 に関する検討会:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 (案)より
そうは言っても、仕事などで座りっぱなしの状態を強いられる場面があるでしょう。長時間続けての座位を続けないように、できるかぎり頻繁に(30分おきなど)立ち上がることでも、血糖や脂質に良い影響を与えることができるそうです。少しでも身体を動かすことで健康に良い影響があると言われています。
普段から運動するように心がけている方も、運動する以外はじっと座っている時間が長いようだと、せっかくの運動の効果が十分に得られないかもしれません。いま座位行動をしているな…と思ったら、定期的に立ち上がって身体を動かしてくださいね。
高齢者は寝すぎ・運動しすぎにご注意を
高齢者の健康状態や生活状況は人それぞれです。元気に動き回っている方がいれば、日がな一日寝そべって過ごすような方もいます。
ずっと横になって過ごしている方が、いきなり定期的に立ち上がるようにするのはハードルが高いかもしれません。寝ているよりは座っている方がまだ良いですので、まずは座る時間を増やすことから始めましょう。
一方で、健康のために一生懸命に運動を頑張っている高齢者もいらっしゃいます。そのような方は、運動のやりすぎにご注意ください。過剰な運動はかえって筋力低下やケガ、体調不良の原因となります。例えば、1万歩を超えたら歩き過ぎですし、体重が減るほどの運動はやり過ぎです。
何事もほどほどが一番です。運動だけでなく、知的活動や他者との交流などにも目を向けるようにしましょう。
「脳とからだの健康LINE」は登録しましたか?
鳥取県では高齢者のみならず幅広い年代に認知症に関する正しい知識と理解の普及をするために、2022年9月より、公式LINE「脳とからだの健康LINE」を立ち上げています。
友だち登録すると、認知症予防に関する情報が定期的に配信され、認知症リスクを簡易的にチェックする機能なども提供しています。認知症予防を意識した健康づくりの参考になりますので、ぜひご登録ください!
<参考文献>
・厚生労働省 健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂 に関する検討会:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 (案)
・Koyama T et al. Effect of Underlying Cardiometabolic Diseases on the Association Between Sedentary Time and All-Cause Mortality in a Large Japanese Population: A Cohort Analysis Based on the J-MICC Study. J Am Heart Assoc 2021;10(13): e018293.
・Prabha Siddarth P et al. Sedentary behavior associated with reduced medial temporal lobe thickness in middle-aged and older adults. PLoS One. 2018 Apr 12;13(4): e0195549.
・Shu-Yi Huang et al. Sleep, physical activity, sedentary behavior, and risk of incident dementia: a prospective cohort study of 431,924 UK Biobank participants. Mol Psychiatry. 2022 Oct;27(10):4343-4354.