認知症になっても地域で安心して暮らせる まちづくりを目指して
2023年1月12日
【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授 運動が認知症の予防になることは、数多くの研究によって証明されています。 運動が得意な人のことを「運動神経がよい」と言いますよね。身体がうまく動くのは、脳が指令し、その通りに筋肉が動いているからです。また、身体が動くことで感じた感覚(触覚、平衡感覚など)は脳に伝えられ、神経細胞が活発に働きます。 つまり、運動することは脳をトレーニングしているのと同じなのです。運動すると脳が活性化されますし、神経細胞を元気にする物質(脳由来神経栄養因子:BDNF)がよく出るようになって、認知機能を高めてくれます。 運動不足は家に閉じこもる原因にもなる 高齢者に多いロコモティブシンドローム(ロコモ)、フレイル、サルコペニアという言葉を聞いたことがあるでしょうか。 サルコペニアとは筋肉量や筋力が低下した状態のことで、骨や関節、筋肉、神経などが悪くなって運動しにくい状態をロコモと呼びます。これらが進み、心身が老い衰えて、日常生活や社会参加が難しくなってくるとフレイル、要介護状態の一歩手前となります。 これらのような状態だと、思ったように動けない、動くと痛いなどのために、どうしても出不精になり、家に閉じこもって社会的に孤立したり、気持ちが落ち込んで何もする気にならなくなったりします。この状態は認知症の大きなリスクとなります。 現役時代の方は、ロコモやフレイルなんて関係ないと思うかもしれませんが、高齢者になってから急に運動習慣を付けるのは難しいことです。将来的に認知症のリスクを下げたいならば、今のうちから身体を動かす習慣づけをしましょう。運動はダイエットや健康によいですし、認知症予防にもなって一石二鳥ですよ! また、認知機能が少し低下してくると、電車やバスを乗り違えたり、時間を間違えたりして困った思いをすることが増え、それを理由に出不精になりがちです。運動量も減り、さらに認知機能が低下するという悪循環になってしまうこともあるので、やはり運動習慣は付けておきたいところです。 運動するときは、一緒に頭を使いましょう 運動をするだけでも脳を使っているのですが、さらにゲーム的な要素を加えることで、より脳を活性化することができます。何も考えずに身体を動かすのではなく、考えながら動くように工夫すると、より認知症予防によい運動になります。 具体的には、ただ散歩するだけではなく、咲いている花の名前を思い出しながら、仲間とおしゃべりをしながら歩く、簡単な計算をしながらスクワットをするなどの工夫です(こちらの記事にもバランスのよい運動などのヒントを記載しています)。ゲーム性のあるスポーツ(例:テニス、卓球、ボーリング、グラウンドゴルフなど)に取り組むのも、よく頭を使うことができます。 ただ身体を動かすだけよりも、何らかのルールを決めた方が楽しく取り組めるような気がしませんか? ぜひ様々な工夫をしてみてくださいね。 栄養バランスの良い食事は認知症予防につながる 運動とともに、食生活も見直してみてください。生活習慣病などでよく言われる「栄養バランスの良い食事」は認知症予防にもなります。 栄養バランスの良い食事とは、カロリーの摂り過ぎに注意しながら、野菜や果物を積極的に摂り、肉よりは魚を選び、お酒は適量にしておく…というようなことです。「もう耳にタコができたよ」とお思いの方もいらっしゃるかと存じますが、認知症予防の観点からこれらの食事の大切さを説明いたします。 まず、カロリーなどの摂り過ぎにより肥満(内臓脂肪)や生活習慣病になると、認知症のリスクが高まります(生活習慣病と認知症の関係についてはこちらの記事を参照)。 野菜はダイエットによい食物繊維を豊富に含んでいますし、色素として含むポリフェノールは抗酸化作用を発揮して脳の神経細胞を傷つける酸化(サビつき)から守ってくれます。果物にも抗酸化作用のあるビタミンやポリフェノールが豊富なのでおすすめですが、糖分が多いので食べ過ぎには注意してください。 たんぱく質はとても大切ですが、肉よりは魚を積極的に食べてください。その理由は、魚(特に青魚)に含まれている脂の質が良い(オメガ3脂肪酸;EPA、DHA)からです。DHAは脳神経の細胞膜に多く含まれる成分ですが、体内で作り出すことができないので食事から摂取する必要があります。 また、大量の飲酒は認知症のリスクを確実に上げる要因の一つとして知られています。飲み物の嗜好品としては、ポリフェノールなど認知症予防によい成分を含む緑茶やコーヒーなどがおすすめです。 ごく簡単にですが、いわゆる「栄養バランスの良い食事」が認知症予防になる理由をご紹介しました。食生活を見直すきっかけとなれば幸いです。
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<参考文献> 浦上克哉:科学的に正しい認知症予防講義. 翔泳社, 2021
長寿社会課 2023/01/12 | コメント(0)
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