【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
認知症を予防するためには、他者との交流・コミュニケーションは重要なポイントです。また、運動や知的活動によって脳をよく使うことは、認知症を遠ざけることにつながります。
しかし気分が落ち込むと、人と会話したり、身体を動かしたり、頭を使う趣味などをしたりする気持ちになれませんよね。抑うつ状態にある人は、誰とも会わずに家に閉じこもって何もせずじっとしている…という生活を送りがちです。
抑うつ状態では認知症予防がしにくくなる
抑うつ状態は、認知症予防の観点からすると、あまり良い状態ではありません。
抑うつ状態では脳の働きが鈍り、神経に栄養が行き届きにくくなり、記憶を司る部位(海馬)が萎縮し、認知機能が低下しやすいことがわかっています。
また、認知症予防によいコミュニケーションや運動、知的活動に取り組む意欲が低下してしまうことも、認知症予防を妨げる要因になってしまいます。
気分の落ち込みからどう立ち直るか
「抑うつ状態は認知症予防に悪い」と言われても、誰にでも落ち込むことはありますよね。
ちょっとしたミスをして叱られたという比較的軽いものから、大切な人との別離という重大なものまで、気分が落ち込む原因がいくつもありますが、大切なのは「気分が落ち込んだところからどう立ち直るか」ということです。
人の心は柔らかいボールのようなもので、悲しい出来事やストレスなどでぎゅっと握り潰されると形が変わってしまいますが、時間をかけて少しずつ元通りになっていくという性質があります。
焦らずに、心に栄養をあげましょう
もし、何か悲しいことがあって心が潰れてしまったのなら、心に栄養をあげましょう。日光はよい心の栄養になります。気分が乗らないかもしれませんが、窓際で太陽の光を浴びてみてください。
落ち込んでいるときは食欲がないかもしれませんが、脳と心に栄養をあげるためには、ご飯を食べて栄養素を摂り込まないといけません。まずは食べられそうな、好きなものから召し上がってみてください。
また、ゆっくり散歩をするなど、軽くでもいいので身体を動かしましょう。血流が良くなりますので、脳と心に栄養が行き届きます。良い気分転換にもなります。
でも、早く立ち直らなければと焦らないでください。深呼吸をして心を落ち着かせ、あなたの好きなものを見たり・聞いたり・行ったりしてください。リラックスや趣味も心の栄養になります。
気分の落ち込みが続く場合はSOSを
多くの場合、落ち込んだ気持ちは数週間も経てば多少は浮上してきます。
しかし、ずっと心が抑うつに支配されたままで、改善なくつらい状態が2週間以上続いているようなら、もしかすると自力で戻る力が足りないのかもしれません。この場合は、精神科や心療内科、カウンセリングや薬物治療などで、心の形を元通りにするサポートを受けることを検討してみてください。
「たかが気分の落ち込みくらいで、病院に行くなんて恥ずかしい」などと思う必要はありません。抑うつ状態はあなたの脳や心の大きな危機です。なるべく早く治療や対策を行って、心の形が戻りやすいように環境を整えましょう。
気分の落ち込みが改善したら、以前のように前向きに他者とのコミュニケーションや運動、知的活動に取り組めるようになります。焦らずに、自分の心と向き合っていきましょう。
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<参考文献>
浦上克哉:科学的に正しい認知症予防講義. 翔泳社, 2021