【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
6月14日は「認知症予防の日」です。認知症予防を正しく知っていただき、その重要性を理解して、認知症予防に取り組んでいただくために、日本認知症予防学会が制定しました※。
※日本記念日協会に申請し、認定された
「認知症予防の日」を記念して東京で式典が行われました。日本認知症予防学会の代表理事である浦上克哉先生の講演内容の一部をご紹介します。
認知症予防の成果が証明された
10年前の報告では、認知症の人は2025年に約675~730万人になると予想されていました。しかし、今年発表された報告では認知症の人は約472万人でした。予想よりも認知症の人が203~258万人ほど少なかったということになります。
この理由としては、喫煙率が減少したこと、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症)の対策が進んだこと、健康を意識した生活(食事、身体活動)を心がける人が増えたことが考えられると言われています。
喫煙や生活習慣病などの認知症のリスク因子を減らしたら、実際に認知症になる人が減ったので、認知症予防の取り組みはやはり意義があったのだと証明されました。
今後は軽度認知障害(MCI)への取り組みが重要
一方、軽度認知障害(MCI)については、2010年の時点で約380万人いると推計されていました。今年発表された報告では、2022年の時点で約560万人いたと推計され、10年ほどで約180万人増えました。つまり、認知症の人は減ったけれども、その代わりにMCIの人が同じくらい増えたということです。
MCIは認知症の一歩手前の状態であり、認知症予防をすることで正常の状態に戻ることができます。これからMCIの人が増えてくると予測されていますから、今まで以上にMCIへの対策が重要になってきます。
これまで、MCIは病気ではないと考えられており、治療薬はありませんでした。しかし、MCIの方も対象となる新しい薬(レカネマブ)が登場したことにより、MCIを早期診断することで新薬の恩恵を受けられる人が出てきました。
しかし、新薬の投与対象となるMCIの人は一部しかいません。多くの人は新薬ではなく、これまでに行われてきた認知症予防(知的活動、運動、コミュニケーション)に取り組むことでMCIから正常の認知機能に戻ることが期待できます。
認知症予防には3つの段階がある
認知症予防には、「一次予防」「二次予防」「三次予防」の3段階があります。一般的にイメージするのは、健康な人がMCIや認知症にならないようにする「一次予防」ですが、MCIの人が認知症にならずに正常に戻るようにする「二次予防」、認知症になっても症状の進行が緩やかになるようにする「三次予防」もあります。
一次予防から三次予防をトータルに行うことで、『共生社会の実現を推進するための認知症基本法』(以下、認知症基本法)が目指す共生社会が実現できると考えます。
認知症基本法は、期せずして2023年の認知症予防の日に成立しました。これを受けて、国は2024年秋ごろに基本計画を示すべく動いているそうですが、鳥取県ではいち早く取り組み内容をまとめて、認知症対策を展開しています。
鳥取県では少子高齢化が極めて深刻な状況にあります。若い人は少なく、高齢者が多い地域です。高齢者がみんな認知症になってしまったら、地域は成り立たなくなります。認知症の一次予防~三次予防に取り組むことで、共生社会を実現していきましょう。
※認知症基本法の解説や鳥取県の取り組みについてはこちらの記事(『認知症基本法』の成立から1年、鳥取県ではどんな取り組みをしている?)をご参照ください。