【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
皆さんは「コグニティブフレイル」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
コグニティブフレイルは、認知機能低下(軽度認知障害;MCI)と身体的フレイルの両方が合併している状態を指します(コグニティブとは“認知の”という意味です)。コグニティブフレイルの人は、認知症になりやすく、要介護状態に陥りやすいことが知られています。
そのため認知症予防をしたい人は、フレイル予防も併せて行うことが大切です。ここでは、コグニティブフレイルの概念について簡単に説明します。
フレイルを放置すると悪循環する~フレイルサイクル~
フレイルとは、要介護状態に陥る一歩手前の状態です。下記の基準に当てはまる項目があるなら、フレイルになっているか、今後なる可能性が高いので気を付けましょう。
<フレイルの基準>
(1)体重減少(意図せず半年で2kg以上減少)
(2)筋力低下(握力が男性28kg未満、女性18kg未満)
(3)疲労感(ここ2週間でわけもなく疲れた感じがする)
(4)歩行速度の低下(横断歩道が渡り切れない)
(5)身体活動量の低下(週に1回も運動・体操・スポーツをしていない)
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フレイルになる原因は低栄養(栄養不足)やサルコペニア(筋肉量減少)などいくつかありますが、それらは互いに関係し合って、悪循環になりやすいことが問題です。
この悪循環は「フレイルサイクル」と呼ばれています。
バランスの取れた食事を摂っていないと低栄養(栄養不足)になります。栄養が足りないと体重が減って、筋肉が落ちてサルコペニアになります。筋力が落ちるので、転んでケガをしやすくなったり、動きづらくなったりします。
筋力が減ると、歩くのが遅くなります。外出や運動などがしにくくなり、活動性が低下してきます。動かないので消費エネルギーが少なくなり、お腹が減らず、食事量が減って栄養不足になります。そうすると体重がさらに減って、サルコペニアが進む……という悪循環に陥ります。
フレイルに認知機能低下が加わると認知症になりやすい~コグニティブフレイル~
このフレイルの悪循環に認知機能低下(MCI)が加わるとどうなるでしょうか。
低栄養(栄養不足)になると、脳に栄養が十分に届かず、やる気が出なかったり、ぼーっとしたりします。そのため運動・活動不足になり、脳への刺激が減り、頭をあまり使わなくなります。
そうすると脳神経細胞の活動が減り、脳神経のネットワークがなくなっていきます。このような状態が続くと、いずれ認知症と診断されるレベルまで認知機能が低下してしまいます。
コグニティブフレイルでは、フレイルの悪循環に伴って、認知機能の悪化にもつながってしまいます。コグニティブフレイルの人は認知症になりやすく、要介護状態に陥りやすいのも納得できるのではないでしょうか。
コグニティブフレイルの悪循環を断ち切るには
フレイルサイクルの悪循環を断ち切るには、栄養を十分に摂るようにする、筋力を付けるために運動(筋力トレーニング)をする、活動性を高めるために積極的に外出する、というような生活習慣の改善が必要です。
また、認知症予防のためには、脳をよく使って脳神経のネットワークを維持・向上することが大切です。運動・活動で体を動かすとともに、知的活動や他者とのコミュニケーションを通じて脳に刺激を入れることで、認知機能が低下することを防げます。
悪循環を逆さまにすれば、良い循環になります。生活習慣を見直してフレイルサイクルを逆回転させて、フレイルや認知症、要介護状態を遠ざけていきましょう。