【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
科学的に正しい認知症予防とは何か――最も評価の高い世界5大医学雑誌である『ランセット』の常設委員会は、その問いに対する研究を定期的に発表しています。今年7月に最新の研究結果が公開されたので、その内容をかいつまんでご紹介します。
修正可能な認知症リスク因子がさらに増えました
認知症の予防に関する研究は世界中で行われており、認知症のリスク因子がいくつも見つかってきています。ランセットの委員会はこれらの研究を検討し、科学的に「これは確かだろう」と考えられるものを定期的に報告しています。
認知症のリスク因子の中には、生まれつきの体質で変えられないものもありますが、意識して対策すれば変えられる修正可能なリスク因子もあります。
2017年に発表された報告では、修正可能な認知症リスク因子は9あり、これらの因子が認知症発症に寄与する割合は35%でした。2020年にはリスク因子が12(40%)に増え、2024年には14(45%)になりました。
2024年の報告で増えたリスク因子は、高LDLコレステロール血症(脂質異常症、高脂血症)と視力障害です。
また、認知症のリスク因子はそれぞれ人生のどの時期に改善すべきかも示されています。これまで高齢期(66歳以上)のリスク因子が多かったのですが、2024年には中年期(45~65歳)のリスク因子が多くなっています。
つまり、認知症予防は高齢期になってから始めるよりも、中年期から早めに始めておくことが大切だということです。
認知症リスク因子に対応することで認知症が予防できる
2024年の報告では、これらの認知症リスク因子がどのように認知症予防に役立つのかを示した図が掲載されています。それを和訳して改変したのが下図です。
14の認知症リスク因子を改善することで、血管のダメージを減らし、脳卒中などによる血管性認知症を起こしにくくなります。また、身体へのストレスと炎症を減らすことは、脳へのダメージを軽減することにつながります。さらに、アミロイドβなどによる神経細胞の変性(死滅)を防ぐことにもなります。
認知症は脳の神経細胞が多く死滅してしまうことで起こりますが、もともと頭をよく使っている人は神経細胞の数が少なくなっても認知機能がそれほど下がらず、認知症になりにくいことが分かっています。このことを「脳の(認知)予備力」と言います。
中年期から認知症リスク因子を改善し、脳をよく使う生活をすることで予備力を高めておくことで、認知症を予防することができます。
“いつか”ではなく“今から”、脳とからだの健康を守って認知症予防を行いましょう!