【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
有名な医学雑誌『ランセット』では、認知症の発症リスクに関する報告書を定期的に更新しています。今年7月に公開された最新の結果では、修正可能な認知症のリスク因子として新たに「視力障害」が加わりました。
視力障害が認知症の発症リスクになる理由
ランセットの最新報告によると、生活習慣の改善や治療によって修正できる認知症リスク因子は14あり、合計すると認知症リスク全体の45%を占めます。そのうち「視力障害」が寄与する割合は2%です。視力障害は高齢者(66歳以上)にとって重要な認知症リスク因子であると考えられています。
なぜ目が悪くなると認知症になりやすくなるのでしょうか。視力低下もしくは目と神経の連絡が悪くなることで、外部の情報がうまく伝わらず脳が刺激されにくくなるため、認知機能が低下すると考えられています。
また、視力低下や失明が起こる原因の一つに糖尿病があります(糖尿病網膜症)。糖尿病それ自体が認知症リスク因子の一つですので、糖尿病+視力低下でさらに認知症になりやすくなるという可能性もあります。
さらに、目が悪いと外出するときに不便を感じて出不精になる人もいるかもしれません。それが他のリスク因子(運動不足、肥満、抑うつ、社会的孤立など)も引き起こし、認知症につながっていく…ということも十分にありえます。
加えて、視力障害によって知的活動がしにくくなるという問題もあります。例えば、編み物や縫物は手先や頭をよく使う知的活動の一つですが、目が悪くなったために止めてしまい、認知機能が低下してしまったという事例もあります。
どんな目の病気に気を付ければいいのか?
ランセットの最新報告には、目の病気別に認知症リスクを算出した研究結果が紹介されています。それによると、失明した人はそうでない人と比較して認知症に1.38倍なりやすいそうです。同様に、白内障は認知症リスクが1.17倍、糖尿病網膜症は1.34倍でした。なお、緑内障や加齢黄斑変性では認知症リスクは増加しませんでした。
白内障は、目の水晶体(カメラのレンズに相当する部分)が白く濁ってくる病気です。物がかすんで見えたり、二重に見えたり、まぶしく見えたりし、いずれ視力が低下していきます。主な原因は加齢で、早い人では40代から、80代以上ではほとんどの人が白内障になるといわれています。
糖尿病網膜症は糖尿病のよくある合併症の一つであり、失明の原因になります。血糖値が高い状態が長く続くために、網膜(カメラのフィルムに相当する部分)の血管が詰まり、出血が起こって見えなくなります。初期は自覚症状がないので、糖尿病の人は定期的に眼科を受診し、眼底検査を受けることが大切です。
また、緑内障(視野が狭くなる)や加齢黄斑変性(視界の中央が見えにくくなる、片目ずつなることが多い)では認知症のリスクが上がらないということでしたが、いずれも進行すれば視力低下や失明につながりますし、日常生活に支障をきたすこともあります。
これらの眼病だけでなく、加齢や他の身体の病気(糖尿病や高血圧、脳や神経の病気など)が原因となって視力障害が起こることもあります。突然に視力が低下したときは特に注意が必要ですし、緩やかに視力が低下しているときも、念のため眼科医に診てもらいましょう。
目の健康を守ることは、認知症予防としても大切です。糖尿病の人はもちろん、そうでない人も、40歳を過ぎたら眼科専門医による定期検査を受け、目の健康をチェックしましょう。