【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
有名な医学雑誌『ランセット』では、認知症の発症リスクに関する報告書を定期的に更新しています。今年7月に公開された最新の結果では、中年期(45~65歳)に修正可能な認知症のリスク因子として新たに「高LDLコレステロール血症」(悪玉コレステロール)が加わりました。
ランセットの委員会は、これまで高LDLコレステロール血症が科学的に認知症リスクと言えるのかどうかを結論付けることができませんでした。2024年になって、認知症予防の研究が世界中で進展したことを受け、高LDLコレステロール血症を新たなリスクとして追加することができました。
認知症の発症リスクは続々と明らかになり、いまや修正可能な割合は約半分(45%)にも達しています。せっかく科学的に証明された知見なので、多くの人に知っていただき、認知症の予防に役立てていただきたいと思います。
高LDLコレステロール血症が認知症リスクになる理由
LDLコレステロールとは、いわゆる「悪玉コレステロール」のことです。コレステロール自体は生物が生きていくために必要な栄養素であり、人間の場合は肝臓で作られ、血液に乗って全身に配られています。
コレステロールには大きくLDL(悪玉)とHDL(善玉)があります。LDLは肝臓から全身にコレステロールを配る役割があり、HDLは全身から余ったコレステロールを肝臓に戻すという役割があります。
血液中のLDLコレステロールが必要以上に多くなる(=高LDLコレステロール血症)と、全身の細胞ではもうコレステロールは足りていますから、行き場を失ってしまいます。そうするとLDLコレステロールは次第に血液内で劣化(酸化)し、ドロドロとしたコブのような沈着物(プラーク)となって血管内に溜まっていきます。
プラークがあると血管が狭くなったり、破裂して血栓ができたりして、その先の血流が途絶え、脳梗塞や心筋梗塞などの怖い病気が起こります。脳梗塞は血管性認知症の原因となります。
また、脳内に過剰なコレステロールがあると、脳梗塞を引き起こすだけでなく、アミロイドβやタウといったタンパク質を沈着させて、アルツハイマー型認知症の発症にも影響するのではないかとも考えられています。
高LDLコレステロール血症は早めに対策を!
今回、高LDLコレステロール血症は65歳未満の人にとって認知症のリスクとなることが明らかとなりました。
ランセットの最新報告では、LDLコレステロール値が39mg/dL上昇するごとに、認知症の発症率が8%増加するという研究結果が紹介されています。
また、LDLコレステロール値が116mg/dL以上の人は認知症のリスクが上がるとも言われています。
健康診断でLDLコレステロールが高いと指摘され始めるのは、120mg/dL以上(境界域高LDLコレステロール血症)もしくは140mg/dL以上(高LDLコレステロール血症)であることが多いはずです。
そのため、健診でLDLコレステロールが高いと言われた時点で、もう認知症リスクが高まるレベルであると考えた方がいいでしょう。しかし、健診でLDLコレステロールが高いと言われても放置してしまう人は多くいます。
高LDLコレステロール血症の人は、まず医療機関に受診して、生活習慣の改善や薬剤による治療を行いましょう。なるべく中年期(45〜65歳)のうちからしっかり行うことが認知症予防につながります。
また、以前に高LDLコレステロール血症の治療を始めた人が受診や治療を自己判断で止めてしまう人や、受診をしていてもコントロールが良くない人が多いので、これを機会に適切な治療をされることをおすすめします。
脳梗塞や心筋梗塞といった病気の予防だけでなく、認知症を予防するためにも、早めに医療機関への受診や治療を行いましょう。