むかし。因幡一円の富と幸せを一身に集めた長者に、湖山長者がいました。長者の所有する田んぼは、千へクタールにも及ぶといいますから、おどろきです。この年も、近くの老若男女をかき集めて田植えをしました。大動員です。
ひるすぎ、親ザルが子ザルを逆さまに背負って、あぜ道でたわむれ始めました。田植えの手を休め、ひとびとは大笑い。このハプニングのため、作業は遅れてしまい、気がつくと、太陽が西に沈もうとしているではありませんか。
例年、長者の田植えは一日で終えるきまりがありました。長者は金の扇を取り出すと、高殿にあがり、太陽を三度招きました。「太陽よ、もどれ!」すると、いまにも沈み切ろうとしていた太陽が、あともどりし始めたのです。ひるのように明るくなりました。田植えは、無事に終わりました。
あくる日。自慢の田んぼを見ようと高殿にあがった長者は、びっくりしました。きのう植えたはずの早苗は消え失せ、青々とした水がさざ波を打っていたのです。それがいまの、湖山池です。