【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
近年では認知症の予防に関する研究が進み、どのような要因があると認知症になりやすいかが分かってきました。そのなかでも大きな要因と考えられているものに「社会的孤立」があります。ここでは、どうして社会的孤立が認知症に悪いのか、どうすれば改善できるのかのヒントをご紹介いたします。
脳は筋肉と同じで、使わないと弱ってしまう
まず大前提として理解していただきたいのは、身体を動かさずにじっとしていると筋肉が落ちて力が出なくなってしまうのと同じように、脳も働かせないと認知機能が落ちてしまうという事実です。
そのため、認知機能が低下しないように、計算やパズルなどの知的活動に取り組むとともに、身体を動かして運動神経を働かせることをおすすめしています。脳のさまざまな機能を毎日使うことで、脳神経は鍛えられ、認知機能の維持につながります。
「他者とのコミュニケーション」は最高の知的活動
人とのコミュニケーション、特にあまり親しくない人との会話は、脳をフル回転させるのにとても良い機会です。
どうしてだか分かりますか?
例えば会話では、相手の声を聞き取り、表情やしぐさを見て話の内容を理解し、その意図を把握したうえで適切な返事を考え、発語し、身振り手振りで気持ちを伝えます。これを何往復もするわけです。ですから、会話をしている人はとてもよく脳を使っています。
特に、まだ相手のことをよく知らない人との会話は、最も脳を使います。熟年夫婦の間では「あれ」「これ」と阿吽の呼吸で通じることが多くて楽でしょうが、頭はあまり使わなくてもコミュニケーションが取れてしまいます。筋肉で例えれば、とても軽いものを持ち上げているだけなので、ほとんどトレーニングの効果がありません。
一方、あまり知らない人が相手のときは、きちんと伝わるように話をしなければなりませんよね。相手の性格や好みが分からないですから、慎重に話題や言葉遣いを選ぶ必要があり、頭をよく使います。筋肉で例えれば、重いものを一生懸命に持ち上げているような状態なので、よいトレーニングになります。
このように、人との会話は認知機能の良いトレーニングになります。知らない人との会話の機会を持てるならそれが一番ですが、知っている人との会話でも、言いたいことを一方的に言うだけではなく、相手の言っていることや気持ちを考えたうえで丁寧に会話するよう心がけるといいでしょう。
定期的に外に出る用事(趣味や役割など)を作ろう!
他者とのコミュニケーションの機会を増やすには、出不精になって家の中に閉じこもらずに外出することです。感染症対策に留意しながら、積極的に出かけましょう!
仕事などで外出やコミュニケーションの機会があるうちはいいですが、引退すると途端に予定や話し相手がいなくなってしまう人は少なくありません。現役時代から仕事以外に趣味や地域の役割を持って、休日をアクティブに過ごす習慣をつけておくことを強くおすすめします。
どんな趣味がいいのかは人それぞれですが、あえて示すなら楽器の演奏や歌を歌うような音楽系の趣味や、絵を描いたり写真撮影をする美術系の趣味が、認知症予防に良いと言われています。仲間と一緒に旅行に行くことも、とても良い脳の刺激になりますよ。
ただし、あまり好きではない趣味を無理やり行うのはかえってストレスになって脳に悪いですので、「楽しく外出できる」何かを探してみてください。
内向的な人がコミュニケーションを取るには?
この記事を読んでくださっている人の中には、少し内向的で、知らない人とのコミュニケーションが苦手な人もいらっしゃるかもしれません。そんな方はぜひ、下記の動画をご覧になってください。臨床心理学の専門家が良いアドバイスをしてくれています。
「脳とからだの健康LINE」は登録しましたか?
鳥取県では高齢者のみならず幅広い年代に認知症に関する正しい知識と理解の普及をするために、2022年9月より、公式LINE「脳とからだの健康LINE」を立ち上げています。
友だち登録すると、認知症予防に関する情報が定期的に配信され、認知症リスクを簡易的にチェックする機能なども提供しています。認知症予防を意識した健康づくりの参考になりますので、ぜひご登録ください!
<参考文献>
浦上克哉:科学的に正しい認知症予防講義. 翔泳社, 2021