【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
最近、認知症の新しい薬(レカネマブ)が米国で承認されました。日本でも2023年秋までに承認されるのではないかと報道されています。
「認知症を治す薬が出たなら、もう認知症を予防する必要はないのでは」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、実は認知症の新薬の恩恵を多くの人が受けるためにも、認知症予防の重要性が増してきています。どういうことなのか、順を追って説明していきます。
認知症の新薬は、認知症そのものの進行を抑えることができる
認知症の新薬レカネマブは、脳内のアミロイドβを取り除く作用を持つ薬です。アミロイドβは認知症(アルツハイマー病)を発症する20年以上前から脳内にじわじわと蓄積していき、そのせいで脳の神経細胞がだんだん死んでいき、ある段階に達すると認知機能が正常範囲よりも低下して、認知症と診断されます。
レカネマブはアミロイドβを取り除くことはできますが、死んでしまった神経細胞を蘇らせることはできません。残念ながら、レカネマブを投与しても認知症をなかったことにすることはできないのです。
しかし、従来の認知症の薬が「症状の進行を穏やかにする」ものであることに対して、レカネマブは「認知症そのものの進行を抑える」という、これまでになかった効果を発揮します。そのために大きな注目を集めているのです。
認知症の新薬は、MCI~軽症での利用が想定される
レカネマブは「認知症そのものの進行を抑える」効果が期待されますが、認知症の症状が進んでしまった人はレカネマブの投与対象にならない可能性が高いと予想されます。おそらく、認知症の一歩手前の段階(軽度認知障害;MCI)から軽症の認知症の人に投与されることになるでしょう。
MCI~軽症の方であっても、精密検査(脳脊髄液検査やPET検査)を行って、本当に脳にアミロイドβが蓄積しているのかを証明しないとレカネマブは投与できません。投与するとなっても、点滴薬なので2週間に1回の通院が必要です。なお、レカネマブの臨床試験では、2週間ごとに1回、18ヶ月間にわたり点滴投与を続けることにより、レカネマブを投与していない人と比べて、記憶、見当識、判断力その他の認知機能低下が27%抑制されたと報告されています。これは、症状の進行をおよそ7.5カ月遅らせる効果に相当します。また、自立して生活する能力の改善も認められています。
そのため、実際にレカネマブの恩恵を受けられる人は、一般の方が想像しているよりもかなり少なくなると予想されます。
MCIで見つけ出すことが大切になる
レカネマブを必要な人に届けるためには、認知症の前段階であるMCIのレベルで患者さんを見つけ出すことが望ましいです。
これまではMCIと診断してもこれといった治療を提案することができなかったので、医師としてもMCIを診断するモチベーションが正直それほど高くなかったのが実情でした。しかし、レカネマブ登場後はMCIを積極的に診断しようとする機運が高まるはずです。
患者さんの側も様子見をせずに、なるべく早く病院に行くことが大切になります。普段から認知症予防を積極的に行って、できる限り認知機能の低下を抑えておき、気になる症状が出たら早めに病院に行って診断を受けることが、この新薬を活かす方法となります。
生活習慣の改善でアミロイドβの蓄積を抑えられる
そもそも体内には、アミロイドβの蓄積を抑えるメカニズムが備わっています。例えば質の良い睡眠を十分な時間とることや、糖尿病の人は血糖値を正常に保つことで、体内でアミロイドβを分解しやすくなることがわかっています。
生活習慣を改善することで、アミロイドβの蓄積を抑えるとともに、神経細胞を元気にすることができます。運動・知的活動・コミュニケーションの3本柱で、引き続き認知症予防に努めていきましょう!
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