第47回県史だより

目次

佐治の「板笠製作用具と製品」について

国の有形民俗文化財としての登録

 平成22年1月15日、鳥取市佐治町に伝わる「板笠製作用具と製品」107点(鳥取市佐治歴史民俗資料館所蔵)を、有形民俗文化財として登録するよう、国の文化審議会が文部科学相に答申しました。鳥取県内の有形民俗文化財が国に登録されるのは初めてのことで、佐治の板笠関係資料を調査、整理、資料の追加収集を進めコレクション化に携わった者の一人としてはうれしい限りです。

佐治の板笠製作用具と製品の写真
佐治の板笠製作用具と製品

鳥取県内の有形、無形の民俗文化財について

 有形民俗文化財の指定対象となるのは、有形の「もの」です。衣食住に関する衣類や食器、生産に用いられる農具や漁具などがそれにあたります。

 一方、無形民俗文化財の指定対象は、風俗慣習、民俗芸能、年中行事などの一般庶民の生活、慣習、行事そのものです。

 そして県内の有形民俗文化財(県指定以上)を概観すると、次のようになります。

【国指定重要有形民俗文化財】

  • 倉吉の鋳物師(斎江家)用具及び製品(倉吉市上古川、昭和60年4月指定)(注1)

【県指定有形民俗文化財】

  • 馬場八幡人形芝居道具(鳥取市馬場、昭和34年6月指定)
  • 長谷寺の絵馬群(倉吉市仲ノ町、昭和32年2月、昭和45年9月、平成20年12月指定)
  • 宇倍神社御幸祭祭具(鳥取市国府町宮ノ下、昭和39年3月指定)

 このように国指定1件、県指定3件となります。

 同じように県内の県指定以上の無形民俗文化財の状況は、国指定重要無形民俗文化財が3件、県指定無形民俗文化は40件となります(注2)

 国内全体では、国指定の有形民俗文化財が207件(注3)、無形民俗文化財が264件(注4)で、無形が有形より多いのは全国的傾向ですが、県内では無形民俗文化財が圧倒的に多い現状があります。県指定有形民俗文化財においても3件全てが信仰・芸能に関する資料で、それ以外は生産・生業に関する国指定有形民俗文化財の倉吉の鋳物師資料が唯一あるだけです。

 そうした状況の中、生産・生業に関する資料である「板笠製作用具および製品」がコレクション化され、文化財として国に登録されたことは重要で、これが契機となり鳥取県内の有形民俗資料が文化財として再評価されることを望んでいます。

佐治の「板笠製作用具と製品」のコレクション化

 平成20年度、鳥取市佐治歴史民俗資料館が所蔵する板笠資料を含めた山村生産用具に注目し、新鳥取県史編さん事業における民具調査を実施しました。この調査では、県史編さんのためのデータを収集することはもちろん、資料の保存管理、継承のための基本台帳作成、重要かつ貴重な資料を再発見しアピールすることも目指しました。

 その中で板笠がその形状、製作方法が全国的にみて特徴あること、生産工程に沿った用具の多くが収蔵されていたことから、鳥取市教育委員会、鳥取県教育委員会文化財課と協議をしながら、有形民俗文化財として国への登録を試みることにしました。

 しかしながら、すべての工程に関する用具を揃えた完全なコレクション化は容易なことではありませんでした。

 板笠関係資料の所有者が亡くなり、かつての板笠製作者も家の改築、新築の際に道具も処分されてしまい、収集が困難な状況にありました。そうした中で、板笠師であった御主人の思い出の品として板笠製作道具を大切に保管されてきた光浪さかゑさん(鳥取市佐治町中)、かつて板笠師として活躍された山下文子さん(鳥取市佐治町中)、遠藤きみえさん(鳥取市佐治町栃原)に出会い、また現在、板笠の原料採集から編み上げ完成まで一貫した技術を唯一保有する山口敏さん(鳥取市佐治町中)にも御協力いただくことでコレクションが完成しました。

 「佐治の板笠製作用具と製品」のコレクション化と国登録有形民俗文化財化という成果は、早くからその重要性に気付き、調査と資料収集に努めコレクションの核をつくった中島嘉吉さん(元佐治村民俗資料館長)、道具を大切に保管されてきた方々など、地域の文化、歴史を大切にする人々の思いの結晶といえます。

【訂正情報】

 「第38回県史だより」(平成21年6月)の注記では、聞き取り調査などから板笠の原料、現地名ウリカエデは学術名ウリカエデに相当し、現地名トウカエデは学術名ウリハダカエデと予測しましたが、これは間違いのようです。

 再度聞き取り調査と原木の調査を実施したところ、佐治町内で現地名ウリカエデはウリノキとも呼び、また現地名トウカエデも、佐治町中ではシラハシとも呼ぶといいます。品種も予測とは異なる可能性が高いことが判明しました。

 まだ曖昧な点が多いため、これについては今後、樹皮や葉の形状などを調査して厳密な照合をおこない報告させていただきます。

(注1)斎江家は、寛永3年(1626)創業と伝えられる鋳物師で、昭和10年代まで伝統的な鋳造法を守ってきた。現存するのは、鋳造のための材料調整用具、型づくり用具、鋳込み用具、仕上げ用具、製品、販売関係資料、信仰・儀礼用具、鋳物師職許状、鋳物師座法之掟などの関係文書で、計1624点。

(注2)鳥取県の文化財については、鳥取県教育委員会文化財課作成の「とっとり文化財ナビ」を参考していただきたい。

(注3)平成21年3月現在。

(注4)(注3)に同じ。

(樫村賢二)

活動日誌:2010(平成22)年2月

1日
派遣講師(米子工業高等専門学校、大川)。
4日
民具調査(湯梨浜町泊歴史民俗資料館、樫村)。
6日
県史編さん協力員(古文書解読)東部地区月例会(県立博物館、坂本)。
7日
県史編さん協力員(古文書解読)中・西部地区月例会(倉吉市・米子市、坂本)。
弥生文化シンポジウムパネリスト(岡山県総合福祉会館、湯村)。
8日
民俗部会生業担当者調査検討会(~10日、県庁・湯梨浜町泊歴史民俗資料館・鳥取市佐治歴史民俗資料館、樫村)。
10日
資料調査(鳥取市用瀬歴史民俗資料館、湯村)。
16日
満州移民聞き取り調査(中部総合事務所、西村)。
19日
資料調査(鳥取市埋蔵文化財センター、湯村)。
鳥取市同和問題企業連絡会研修会講師(とりぎん文化会館、西村)。
20日
中世史料調査(~25日、福岡市博物館・福岡県立図書館・熊本市総務局歴史文書室・熊本大学附属図書館・都城市立図書館・宮崎県総合博物館・大分県立歴史博物館、岡村)。
22日
佐治の板笠製作技術調査(鳥取市佐治歴史民俗資料館、樫村)。
23日
鳥取城跡調査検討会(鳥取城跡発掘調査現地、湯村)。
25日
東部地区高等学校地歴公民科教育研究会講師(白兎会館、西村)。
民具調査(湯梨浜町泊歴史民俗資料館、樫村)。

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編集後記

 2006(平成18)年にスタートした新鳥取県史編さん事業もまもなく4年目が終了します。10年間を第1期として計画していますので、始まったばかりと感じていた事業もすでに3分の1以上が終了し、来年、2011(平成23)年4月には折り返し地点を通過することになります。

 毎月1回を目標に発行している「県史だより」もすでに第47回になりました。第15回から担当し、追い立てられるように編集してきましたが、気がついたらかなり遠くに来ていたといった感想です。順調に進めば2014(平成26)年8月に「県史だより」は第100回を迎えているはずです。その第100回を目標に皆様に、編さん室一同でわかりやすく楽しい情報を「県史だより」で提供し続けていきたいと思います。

(樫村)

  

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