鳥取県中部の東伯郡三朝町には、国の名勝及び史跡に指定されている「三徳山」、そしてその中腹には国宝「投入堂」があります。この北方に位置する成(なる)地域には、後期中新世(約1160~530万年前)の地層「投入堂凝灰角礫岩層」が分布しており、多数の植物化石をはじめ珪藻や昆虫化石がみつかっています。この植物化石たちは「三朝成植物化石群」と命名され、後期中新世の特徴的な植物相であると報告されています。
成地域から産出した植物化石は、温帯落葉広葉樹と若干の常緑樹からなる22科40属72種が見つかっており「三朝成植物群」と命名されました。後期中新世以降の国内の植物相は、ブナ科のムカシブナ(Fagus stuxbergi)が優占種であることがほとんどですが、三朝成植物群はニレ科のムカシケヤキ(Zelkova ungeri)が優占種です。
ほとんどが絶滅種で構成されています。近縁な現生種の現在の分布から三朝成植物群の分布域(古環境)を推定すると、水平分布は冷温帯から温暖帯、垂直分布は0~3000mと、とても幅広い分布域が推定されています。これをどのように解釈するか、詳細な古環境解析が課題となっています。
画像 左:ムカシケヤキ(TRPM687-0690)/右:ムカシブナ(TRPM687-0681)
写真を赤木ほか(1984)より引用し作図、標本はすべて個人蔵
■珪藻化石は8科14属20種が産出しています。湖水浮遊性の珪藻が多く産出していることから、湖のような古環境であったことが考えられています。
赤木ほか(1984)より写真を引用し作図、標本はすべて個人蔵
■昆虫化石は3種が産出しています。ツノカメムシ科の化石はほぼ種(しゅ)まで同定されました(ヒメハサミツノカメムシに近縁な種:
Acanthosoma
sp. aff.
forficula)。現生のヒメハサミツノカメムシはブナ帯やクリ帯に生息していることが知られていることから、この化石種も同様な環境に生息していたと考えられています。
【主な参考文献】
赤木三郎・山名巌・平尾澄昌・広田昌昭・衣笠弘直(1984)鳥取県三朝町成より産する後期中新世の植物化石,鳥取 大学教育学部研究報告.自然科学,第33巻,49-80.(鳥取大学研究成果リポジトリ:
https://repository.lib.tottori-u.ac.jp/ja/1544 )
山内靖喜(2009)(4)鳥取県中部地域,日本地質学会[編].日本地方地質誌6 -中国地方,朝倉書店,128-131.