この大会も、令和から始まって3年目になりました。3回やってくると、この大会のいいところが見えてます。やっぱりチーム戦っていうのがすごく面白いですよね。各チームが持ち味をだして、そのチームの味わいが感じられて楽しかったです。
もちろん、決勝に進まれた3チームもそうでしたけど、「つまようじ」は男の子ばかりのパフォーマンスで、黒い学生服と白いカッターシャツが凛々しかったし、「もくようび」のパフォーマンスは、楽しくやっている感じがして面白かったし、「海」は歴史的仮名遣いで攻めようという、文学的な一体感があって、チームのそれぞれの持ち味っていうのがパフォーマンスを通じて何となくにじんでくる。そこがこの大会のとってもいいところかなという感じがするんですね。
短歌って、コミュニケーションのしやすい文学ジャンルだと思います。小説を書きながら仲間を作るのはなかなか難しいけれど、短歌の場合、みんなで、わいわいわいわい、自分の作品をみんなに読んでもらったり、みんなの作品を自分が読んだりすることができる。そのなかで作品世界を深めていくっていうことが、とっても大事なことなんじゃないかなって思ってます。
ぜひこの大会、来年はみんなで集まって、わいわいがやがやしながら開催できたら嬉しいなと思います。
2校が全く違ったタイプのパフォーマンスで、どちらも素晴らしかったですね。僕、何回も見ちゃったんですけど。
「花月マーチ」の方は、まずバンと歌が出て、画面をめくるようにコント仕立ての寸劇があり、最後にぬいぐるみが、これがうまいですよね、歌のニュアンスを、その流れの中で、言いすぎずに、こういう歌なんだということを心から心に伝えるような感じで手渡す。非常に高度なパフォーマンスでしたね。みんなが一斉に走り出す繰り返しに、「デジャブ?」とか、「使いまわし?」とかツッコミが入ったり、最後に出てきたカニは鳥取への挨拶ですかね。短歌や俳句では、土地への挨拶をしてよろしくという、挨拶歌とか挨拶句という概念があるんですが、それが最後に出てきたところなど、見事でした。副賞で挨拶のお返しがちゃんといくようですから、カニをだした甲斐がありましたね。
「海」の方も、画面に向かって一人で、トークで空間を作るって難しいと思うんだけど、3人が全員トーク力が素晴らしくて、一人で小説のモノローグを読むような、一人芝居のような感じで、聞いているうちに引き込まれました。空間を作れるパフォーマンス、単独で時空間を作って、見ているものを引き込む力が全員にあったというところに素晴らしさを感じました。
受賞作品
全力でバトンを渡す「はい」というかすれた声も友は背に聴く
山口県立光高等学校 3年 深谷 乃梨子
講評:大辻隆弘審査員
これはリレーの場面だと思うんだけど、自分が次の走者に渡すときの感じですね。全力でバトンを「はい」と渡す、その自分の声を、きっと友達は背中で聴いてくれて、そして私の気持ちを受け取って、これからダッシュしてくれるだろう、そういう運動会なり、競技会の一瞬を切り取っているところが、とても生き生きとしている。臨場感あふれる歌だなと思って、私の賞にさせていただきました。
受賞作品
トンネルを抜けたら海と空の青列車が揺れて肩がぶつかる
鳥取県立鳥取東高等学校 1年 寺谷 陽菜
講評:穂村弘審査員
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」、という有名な小説の一節がありますけれども、トンネルを抜けたら、空と海が一気に視界に入って広がって、自分が溶けてしまいそうな感覚があった。ところが下の句では、列車の中にいて、揺れて肩がぶつかるという、ひどく地味な描写があって、ここが素晴らしいなと思いました。空と海がどこまでも青いという自由さに対して、しかし自分は今地上にいるということですよね。何かにつかまったりしているのかもしれないし、狭い列車の中で肩がぶつかるような地上にいて、空と海が溶けそうな青さを見ているという対比にとても胸を打たれましたね。なかなか作れない歌じゃないかと思って、感銘を受けました。
受賞作品
バイバイと別れた君の横顔はまだまだ遠いまだまだ歩く
鳥取県立鳥取東高等学校 1年 影井 仁
講評:江戸雪審査員
この歌は、君と自分との立ち位置や関係や思いっていうもの、全てひっくるめてすごく立ち上がってくる歌で、なおかつ、「バイバイ」「まだまだ」「まだまだ」っていうような、偶然なのかもしれないけど、音の響きの面白さを全面に出しています。一見、軽い感じなんですけれど、「横顔」とか「遠い」とか、ちょっと寂しく思わせるような言葉を入れながら、恋のせつなさを私たちにも思い起こさせてくれるような歌でした。これからどんな歌を作っていってくれるのか楽しみですし、今度はリフレインの入らない歌も読んでみたいな。頑張ってください。