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短歌大会写真

審査員特別賞の講評について:本選審査員(大辻隆弘審査員、穂村弘審査員、江戸雪審査員)の講評は、大会当日、会場でお話しいただいた内容を掲載しています。また、予選審査員(大森静佳審査員、小島なお審査員)の講評は、書面でお寄せいただいた内容を掲載しています。

  

全体講評:穂村弘審査員

 受賞された皆さんおめでとうございます。素晴らしい歌が多くて、驚きながら拝読したんですが、短歌はすごく面白いなあと、やはり今回も思いましたね。

 スタイルウォーズというのかな、それぞれのチームにスタイルがあって、「豊立」や「高田PLANTS2」のようにチャレンジングな作り方のところもあれば、「金木犀」の、ナチュラルさというか、素直さに驚くということもありました。

 それは、五七五七七に身を自然にゆだねるという感じの、定型に対するスタンスにも繋がっていたように思います。短歌って、やはりその強さは確かにあって、私はそれができないままいつも無理をしながらやるので、自然体を見ると圧倒されてしまうんですけどね。スタイルは違うんだけど、どちらも優れているものがぶつかるとき、すごい興奮がありました。

 例えば、準決勝第1回戦の中堅でいうと、「らいちぱんなこったマーボー」の「下か上か横か 高く投げられ落ちるまでをラバー斜めに待つその時を」という卓球の歌ですが、これは意図的に「下か上か横か」という初句を9音にしています。これは、心の中で、ものすごく高速回転して最善手を見極めようとして、逆にスロモーションみたいになる意識があると思うけど、その感覚をあえて破調にすることで表現している。

 それに対して「銀木犀」は「友達と話してる君見ているとふと目があって高くなる波」、これは定型に関してきっちり、十全な表現になっていて、しかも誤読の余地がない。「上か下か横か」は、卓球だと分からない人もいると思うんです。だから、審査員の数が増えれば増えるほど、おそらく、「目があって高くなる波」の方が共感できて好きだという人が増えるんじゃないかなと思いながら、審査をしていました。

 こういう時って両方あげたくなるんだけど、他にも両方あげたくてたまらなかったのは、準決勝第3回戦大将の、「でつぷりなオタマジャクシ」の歌と、「夕焼けを一緒に入れて送る手紙」の歌です。不思議なことに、こういう時って、めちゃくちゃいい歌同士がぶつかるものなんですよね。だから印象に残るのかもしれないけど、これも本当に両方にあげたいバトルでした。

 やはり、夕焼けの歌の方がナチュナルな作り方で、オタマジャクシの方が冒険したという感じがあります。その冒険はイメージとかにもあるんだけど、やはり、五七五七七という定められたルールに対してどれくらい挑戦するかというところに、一番出るのかな。でもそこを質問しようとすると、もう先に答えられてしまうので、逆に言うと、みんな、ちゃんと意識してチャレンジしているということが分かって、素晴らしいと思いました。

 パフォーマンスでは、土地への挨拶もあり、デジャヴという表現もありましたが、あれは去年やったパフォーマンスの、時間を越えた本歌取りですね。本歌取りって時間を縦にさかのぼることだから、そうした連続性があっていいなと思いました。

パフォーマンス特別賞講評:大辻隆弘審査員

 「高田PLANTS2」は、3回のパフォーマンスのうち、一つを短い寸劇仕立てにしたり、またある場面では、詩的な形で、自分の思いを詩のように読み上げることによって歌の表現をしている、そういうバラエティに富んだところが面白いと思いました。それから、謎の紙袋とか、謎の上着が登場して、身近にあるものを上手に使っているのも、面白いところでした。

 「アップルシナモン」は、ゴンタン君の活躍がすばらしかったと思います。そのかわいさを使いながら、間が上手ですね。ちょっとした間を作って、観客の人に笑いを取ったり、興味を引かせたりするやり方がとても上手だと思います。そういう意味で、洗練されて、コンセプチュアルな形で、上手にできているパフォーマンスでした。

 あとのチームもとても面白かったんですが、対照的な二つのグループを選ばせていただきました。

 今までは映像で見ていることが多かったんですが、今年は目の前で皆さんのパフォーマンスを見せていただいて、迫力や、楽しさを共有できたこと、とても楽しく、うれしく思っています。おめでとうございました。

 

審査員特別賞 大辻隆弘賞

受賞作品

手のひらに刺さった鉛筆の芯は今も心臓目指して進む
       立教池袋高等学校 2年 小幡 曜

 

講評:大辻隆弘審査員

 ひりひりした自分に対する意識がいかにも高校生の歌だと思いました。「鉛筆の芯は」という区跨り、この屈折感がまずかっこいいと思います。

 それから、今も心臓を目指して進むわけですから、その黒い鉛筆の芯がじわじわと体の中枢に向かって、動いているというのを作者は見ているわけです。それを冷静に見ながら、自分の心臓に突き刺さる鉛筆の芯を想定しているところが、僕はポジティブとははじめ感じなくて、自分に対するひりひりとした自虐の気持ちみたいなものを、形象化して、形で表していると、鉛筆の芯の黒さも怖いなと思いながら、読みました。

 ぎりぎりのところで魂で歌っている、若者の歌という感じがすると思います。とてもいい歌でした。

 

審査員特別賞 穂村弘賞

受賞作品

夕焼けを一緒に入れて送る手紙放課後静かな廊下を歩く
    鳥取県立鳥取東高等学校 2年 小笹 由惟

 

講評:穂村弘審査員

 「夕焼けを一緒に入れて送る手紙」というところが詩的なイメージを作っているんですが、短歌として見たとき、この「放課後静かな廊下を歩く」の、何も起こらなさに、すごく引きつけられました。短歌って短いから、つい、何かいいことをやりたく、書きたくなるんですが、「放課後静かな廊下を歩く」では、特に何も起こらない。

 この「放課後静かな廊下を歩く」の不思議な静けさが、上の句の「夕焼けを一緒に入れて送る」という詩的な部分を、何か「本当」っていう感じに支えているような気がして、とてもいい歌だと思いました。

 

審査員特別賞 江戸雪賞

受賞作品

でつぷりなオタマジャクシがゐたのです早送りできない日常のすみに 
              高田高等学校 1年 加藤 晴香

 

講評:江戸雪審査員

 とりとめもなく流れていく日常に大きくでっぷりのオタマジャクシがいるという、ただそれだけの歌だということをパフォーマンスでは強調されていたんですけれど、やはりこの歌は「日常」と「でつぷりなオタマジャクシ」の対比が効いているのだと思います。その対比を強めているのが文体や表記です。上の句の「でつぷりなオタマジャクシがゐたのです」の旧仮名表記は、時間のゆったり感を出していますね。例えば「ゐたのです」の「ゐ」は、旧仮名にすることによって現代仮名遣いの「い」よりちょっと膨らむ。音が膨らむということは、時間も場面も膨らむような感じがします。

 下の句は、9音と8音で音が多め。そうすると、定型におさめようという意識がはたらき、上の句とは違って早口で読んでしまうんです。時間がきゅっと締まる感じ。それが内容と合っている。こんなふうに、文体と内容のバランスがいいのですよね。

 

 圧倒的に存在している日常よりオタマジャクシの方が小さいはずなのに、なぜかオタマジャクシの方がどよんと大きく体感できてしまう、とてもうまい歌だと思いました。

 

審査員特別賞 大森静佳賞

受賞作品

いつの日か私も大人になるのかな 高くて黒い尖った塔に
            神奈川県立光陵高等学校 1年 岩本 菖

講評:大森静佳審査員

 大人になることはすなわち、「高くて黒い尖った塔」になることだ。そんなふうに感じている「私」の、ひりひりと醒めた認識に惹かれた。手の届かない尖塔はある種の傲慢さやつめたさの象徴か。なかでも「黒い」という形容が印象的で、「塔」全体が黒々とした影としてイメージされる。
 おそらく、いざ大人になったら自分が「塔」だということに気づけない。人間とか未来といったものに対する、きれいごとでも無邪気でもない真摯な心もとなさが表現されている。そして、「なるのかな」というやわらかな口調によって、それがあくまで今このときの気持ちのたゆたいである感じも伝わる。子どもと大人のはざまに投げ出された「私」の、読者の胸ぐらをつかむ力のある一首。

審査員特別賞 小島なお賞

受賞作品

 でつぷりなオタマジャクシがゐたのです早送りできない日常 のすみに
              高田高等学校 1年 加藤 晴香

講評:小島なお審査員

 「でつぷり」「ゐたのです」の旧かな遣いのおもしろい味わいと、物語を語るような不思議な口調。オタマジャクシのおおきくて丸々と太った存在感が、過ぎてゆく日常をとどめる重しのようです。テレビや動画とはちがう日常の時間。どんなに退屈でも、どんなに楽しいことが待っていても早送りすることはできません。卵だった過去や蛙になる未来をまるで思っていない様子で、水のなかを漂うオタマジャクシ。その姿を作者はきっと毎日覗いていたのです。きのうの姿ときょうの姿は同じように見えて、決して同じではなかったはず。オタマジャクシは今の大切さの象徴だったのかもしれません。

  

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