予選を勝ち抜いた4チームだけあって、本当に僅差の戦いでした。全て2対1で勝負が決まる戦いばかりで、すごく迫力があって、レベルの高いチームだったと思います。
『立教池袋Aチーム』は、それぞれが自分勝手に自分の世界を追求する感じがして、とても自由で見ていて楽しかったですね。準決勝の歌も、憧れを歌った歌、自分のやさしい寝息を感じる歌、ちょっとユーモラスに「スーパーパン」に着目した歌、それぞれ個性があって、とてもバラエティに富んだチームだったと思いました。
『海月LIFE』の皆さんは、日常的で身近なところから、歌の題材をすっと取り上げてきてくれていると思いました。カステラとか、自分の体とか、或いは定食とか、そういう身の回りで見たこと、感じたこと、それをそのまま素直に言葉にのせていくところに長けていました。そういった素直な感じ方というのはとても大事なんですが、そういう持ち味があったチームでした。
決勝に進まれた2チームは、短歌というものが何なのかということを、突き詰めて考えているという感じがしました。短歌という一つの詩形、定型の中で、何が限界で何が可能性としてあるのか、そういうことをチームの中でもかなり議論してるんじゃないかと、そういう意味ではプロフェッショナルな感じがしました。決勝戦は歴史に残る戦いで、非常にいい歌の対決でした。
準優勝になった『光合成朝ごはん』は、発想がすごく豊かだと思いました。それから、気仙沼というと、海がありますが、やはり、シロナガスクジラとか、妹のバタ足とか、水に関連するようなイメージが出ているように感じました。また、決勝・中堅のカバの歌のように、ひらがな、カタカナといった細かいところに注目して歌を作っていくことや、準決勝・大将のシロナガスクジラの歌のように、自分の想像力をどうやって言葉にしていくかといったことをお互い切磋琢磨している感じがして、非常に高度な表現力があるチームだと思いました。
優勝された『名古屋高校文学部』は、プレゼンが上手ですね。自分の歌のどこがいいかということが、非常に冷静に分かっていて、みんながここを魅力的だと思ってみてくれるだろうというところを、確実に押さえて、アピールする力が圧倒的でした。
それから、このチームは、定型というものに対して、かなりいろいろ冒険しています。句またがりを使ってみたり、あえて定型を外してみたり、短歌というものの可能性みたいなものを、おそらくお互い考えながら作ってるんだろうと思います。短歌とは何者だということを、研究所のように、みんなで追求している感じがしました。そうした、定型に対する冷めた意識の深さみたいなものが、今回の結果に繋がったのではないかと思います。
4チームともとてもすてきな歌ばかりで、今回も審査していて本当に楽しかったです。4チームの健闘を心からたたえたいと思います。
素晴らしい歌が集まって、驚きました。また、これはなぜなのか謎なんですが、いい歌が不思議にいい歌と当たるんですね。
優勝した『名古屋高校文学部』は、必ずしもこういうバトル向きではない歌を出してきたと思いますが、強かったですね。自分の歌のよさを簡単に説明できる歌の方がバトル向きだと思いますが、準決勝・大将の「冷やし中華にのっぺりとハム」とか、決勝・中堅の「魚の頭が立たされていた」とか、あるいは決勝・大将の「正露丸」も、必ずしもそのよさを説明しやすい歌ではないですね。「のっぺりとハム」を説明するのはかなり難しいと思いますが、実際いい歌だし、そこに、勝敗を度外視した強さみたいなものを感じました。
『光合成朝ごはん』の決勝・大将の歌は、質問への回答で、作者から「このまま順番に死んでいくとすれば」という言葉がありましたが、何か異空間にのまれるような感じがあって、質問以上の答えが返ってきてしまったという怖さを感じました。凪が妹さんの名前だというところにも、謎めいた魅力を感じたので、多分すごくいい歌なんだと思います。準決勝・大将の「勝手に住所を作って」という歌も、普通の発想では「うち」などというんでしょうが、そこをあえて「住所」というところに良い意味での特殊性を感じました。
『海月LIFE』の準決勝・先鋒の「あなたはカステラだった」も、そこまでカステラを言うという感じが面白かったですね。
また楽しみにしています。できれば短歌をやめないで、歌人になってほしいですね。
皆さん、時間というものをとてもうまく利用して詠われていると思いました。巡ってくる冬を「n回目の冬」と言ってみたり、「神様のような妹」というフレーズも、ちょっと涙が出てくるような感じがして、言葉以上の何かを感じてしまいました。そういうのも、時間をはらんでいるから人の気持ちが掴めるのかなと思いました。言葉というのは、発したときの意味だけではなく、その裏に隠された、言葉を発する人の意識みたいなものが乗っかっていくんだろうと感じましたね。
そういう意味では、「スーパーパン」や「シロナガスクジラ」など、名詞の持っている強いインパクトをうまく利用した歌もあって、短歌の本質みたいなものを掴んでいると思いました。
何よりも良いのはリズムを重視した歌がたくさん見られたことで、そのあたりも大切にして、作っていってほしいと思います。