全体の食感を決める大事な「押し」の作業。力加減は経験がものをいう
艶やかなタレ、ほんのりと甘い香りに誘われて口に入れた瞬間、ぱりっとしたハタハタの食感と香ばしさが広がり、爽やかな酸味のきいたシャリがふわっと口の中で溶けた後、ショウガの辛みがアクセントをつける。岩美町民に愛される郷土料理「じんたん寿(ず)司(し)」は、地元の民宿の女将や主婦8人で構成される郷土料理愛好会(福本則子代表)の研さんの集大成だ。
「鰰(じん)短(たん)」と呼ばれる売り物にならない小さな(短い)ハタハタ(鰰)を地元漁師が海に返している話を聞いた同会が「もったいない」と感じ、そのハタハタを使った料理で地元を盛り上げようと、協議を重ねてすしにすることに。「地域に愛される料理」「魚嫌いな子どもでも食べられるおすし」をコンセプトに開発に着手したのが13年前だった。
魚の臭みを取るために刻みショウガやゴマをシャリに混ぜ、ハタハタにも香ばしさと食感を持たすためにしっかりと火を通すなど、素材の選定や調理方法一つ一つにこだわって研究を重ねた。福本代表は「酢が苦手な子どものための合わせ酢の配合、ふわっとした食感をシャリに持たせるための押し型の選定や力加減も苦労しましたね」と当時を振り返る。ようやく納得のいく形になったのが約3年前という。
町内外のイベントへの出店や料理教室などの普及活動が実を結び、今では岩美町の名物料理として広く認識されている。同会が毎年出店している同町のマラソン大会では、多くの町外、県外ランナーがじんたん寿司の購入を楽しみにしているなど、その名を広めつつある。
福本代表は「知名度はある程度獲得したと思うが、手間が掛かるので家庭ではなかなか作ってもらえていない。地域・生活にさらに密着した料理にするため、調理方法などに改善を加えたい。ゆくゆくは土産品として売り出せたらいいと思うが、焦らず仲間同士で楽しみながらマイペースでやっていく」と今後の抱負を会の仲間と笑い合いながら話していた。