〇弓浜半島の郷土食「いもぼた」
一見するとぼたもちのようだが、小豆のあんの隙間からやや黄色味がかった中身がのぞく。口に入れると、ぼたもち特有のコメの存在感よりサツマイモの甘みが広がってくる。弓浜半島で古くから伝わるサツマイモを使ったぼたもち、名付けて「いもぼた」だ。
弓浜半島は砂地が多く稲作には不向きな土地柄だった。江戸時代中期に石見銀山領大森代官、井戸平左衛門が薩摩国から砂地に適したサツマイモの種芋を山陰に取り寄せて以降、サツマイモの栽培が盛んに。収穫の少ない餅米の代わりにサツマイモでかさ増しをし、独特なぼたもち文化が生まれた。
最近、いもぼたを作る家庭はめっきり減ったというが、かつてはサツマイモの収穫シーズンの秋から冬にかけてよく作られ、近所に配られていたという。弓浜地域のサツマイモを特産品として復活させようと2015年7月、米子市大崎、葭津などの生産農家7戸が農事組合法人「浜の目」(吉岡陽一代表)を立ち上げた。
組合員の一人で旧溝口町から嫁いできた友森一美さんは「餅米のぼたもちしか食べたことがなかったので、いもぼたは新鮮。食べ方にも歴史があって面白い」と食文化の奥深さを実感する。サツマイモと餅米の分量は調理する人によって異なるため、家庭によってさまざまな食感や甘みが楽しめるという。
吉岡代表は「郷土食を掘り起こし、高校との連携による新商品開発など食べ方を提案しながら消費拡大につなげていきたい」と意気込んでいる。