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青谷上寺地遺跡


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とっとり弥生の王国シンポジウム

2022年07月27日
青谷弥生人そっくりさんグランプリ&大集合ツアー完全レポート(3)


 大会の熱は冷めやらぬまま、「そっくりさん」一同は県庁職員に引き連れられ、会場近くにある青谷上寺地遺跡へと向かった。
 そこは弥生時代前期から古墳時代前期にかけて営まれた集落遺跡だ。そう、「そっくりさん」たちが大会前に見学した数々の文化財が掘り出された場所である。
 掘立柱の建物跡、水田跡、貝塚などが発見され、また精巧な木製の器や美しいアクセサリー、それに中国大陸や朝鮮半島で製作された鉄製品など、膨大な遺物が出土している。この時代の生活や異文化交流の様子を察するための、重要な資料だ。
 そこでは百体を越える弥生人の人骨がかつて発掘されたそうだ。いまは草の生い茂るばかりのその遺跡で、県庁職員の説明を真面目に受ける「そっくりさん」たち。なんでもここに眠っていた人骨からは、戦闘によるものと思われる殺傷痕がいくつも確認されているという。「そっくりさん」たちも、つい先ほどにグランプリという名の戦闘を終えたばかりだ。過去と現在とが、青々とした小さな土地の中で交差している。
 遺跡の見学を終え、「そっくりさん」たちは疲れた体を休めるべく、三朝温泉へとバスで向かう。引率の県庁職員がまた人数確認をしようとするが、やはりバグって上手くいかない。どこまでも彼らは同じ顔であり、青谷弥生人似なのである。

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 宿にそのままチェックインするのも味気がない。というわけで、温泉街をぶらぶらと散策する流れになった。足湯や公営の露天風呂などを見つけては、楽しそうにはしゃぐ「そっくりさん」たち。そう、気づけば彼らは仲良くなっていた。朝の無言の景色がウソのように、めちゃくちゃに仲良くなっていた。それは大いなる祭りを共に通過したからなのか、それとも同じ顔を並べているうちに親近感が爆発したからなのか。飲泉の熱湯に嬌声を上げ、写真を撮り合う。そこに広がっているのは、「族」とも呼ぶべき、心を通わせた仲間たちの姿であった。

 こうして『青谷弥生人そっくりさんグランプリ』本番日は、見事に幕引きとなった。夜が訪れ、「そっくりさん」たちは三朝温泉の湯けむりに包まれながら穏やかな眠りに就いた。

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 やがて朝が訪れ、青谷弥生人の「そっくりさん」たちはまたもぞもぞと動きを開始した。
 本日に訪れるのは、鳥取県が誇る弥生スポット「妻木晩田遺跡」である。
 鳥取県の西部に位置するこの遺跡には、かつて弥生人の大集落が広がっていた。フィールド内の「むきばんだ史跡公園」では、雄大な草原の中に竪穴式住居や高床式倉庫でもって当時の景観を再現している。キャッチフレーズは「甦る弥生の国邑」。突き抜けるような青空、草の濃い匂い、林から聞こえてくる雉の鳴き声などが織りなす情景の中に身を置いていると、本当に二千年前の弥生人の「ムラ」にタイムスリップしてしまったような心地を味わうことができる。まさに、現代に甦った弥生時代のパノラマであるのだ。
 ここで「そっくりさん」たちは火起こし体験をすることになった。
 スタートの合図と共に、一斉にまい切式の火起こし器を上下に運動させ、火だねを生成する。しかし、これがなかなかに難しい。「そっくりさん」たちは、煙を発生させることすらできない。そう、顔がそっくりなだけでは、弥生人の所作を完璧に再現できるわけではないのだ。引率の職員が「まあ、皆さん、実際はただの現代人ですからね」とでも言いたげに、にやにやしながら遠巻きに眺めている。
 初夏の太陽が照り付け、彼らの額に汗を生む。それでも諦めずに続けるうち、やっと火起こしに成功する者が現れる。
「うわー、オレが最後だったらどうしよう!」
「負けたくない!」
 そんな声が「そっくりさん」たちから上がる。もはやレース状態である。『青谷弥生人そっくりさんグランプリ~火起こしテクニック編~』なのか、これは。
 ちなみに昨日グランプリを取った吉田さんは、まあまあ火起こしが下手だった。けっこう本気で落ち込む彼を「国王は火とか起こさないからね」と他の「そっくりさん」たちが慰めていた。友情の焔が緑の大地で爆ぜている。

 火起こしという戦闘を終えた彼らは、こんどは竪穴式住居の見学をわらわらと始めた。

「ただいま~」と言いながら、住居内へと足を踏み入れていく「そっくりさん」たち。本当に弥生人の帰宅風景に見える。
 当時の暮らしぶりを完全に再現しているわけだから、そこは実に質素な造りとなっている。特にアクティビティのようなものはなく、とりあえず住居内部の中央に集まって集合写真でも撮りますか、ということになる「そっくりさん」たち。するとシャッターが押されるその瞬間に、ひとりが「わっはっはっはっ!」と野太い声で高笑いを奏で始めた。それが伝播し、気づけば全員が竪穴式住居に笑い声を響かせる。わっはっはっはっ。肩を組んで、わっはっはっはっ。
 弥生が、キマっている。

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 「むきばんだ史跡公園」から向かった最後のスポットは、中国地方の最高峰・大山、その中腹に広がる牧場である。「そっくりさん」たちはそこで共に牛乳を飲んだり、野原に寝そべったりして、愉快な交流を続けている。
 しかし、いよいよ別れの時間である。二日間、引率を担当していた県庁職員がスピーチをする。
 「本当に皆さん、おつかれさまでした……!」
 見れば彼は涙ぐんでいた。その姿に拍手を送る「そっくりさん」一同。この引率の県庁職員は、本企画を成功へと導くため、半年以上も準備を重ねていたという。きっと達成感から感極まってしまったのだろうな、と眺めていたら、次に繰り出された言葉に度肝を抜かされた。
 「ここに集まった『そっくりさん』たちが仲良くなってくれたのが、本当に嬉しくて……」
 なんだ、これは。なんなんだ、この平和でしかない景色は。
 それはまさしく、『青谷弥生人そっくりさんグランプリ』の本当のクライマックスの瞬間であった。

 

 この二日間を振り返って思う。ああ、これはれっきとした「祭り」であったのだな、と。

 私たちは、顔が似ているとか似ていないとかに拠って、関係や文化を育んでいるのではない。一緒に同じ時を刻み、同じ遊びに興じることで、理解を生み出し、新たな関係や文化を育てているのだ。未知なる者同士は、こうした祭りの中で交流することで、無言を溶かしてきたのだ。そう、二千年前から、現代に至るまで。
 人間とは本来的に、どんな他者とでも、どんな異文化とでも、コミュニケーションができ、そして共感し合えるのだということを、私は今回の祭りを通じて、強く実感した。
 この数年で巻き起こったパンデミック、それによって我々は集うこと、群れること、触れ合うことから遠く離れ、なんなら分断さえも生み出してしまっていた。しかし、これから先にこのような祭りを描けば、きっとまた柔和に混ざり合えることができるだろう。希望にも似た地層を重ねることができるのだろう。


 「青谷弥生人」というハッシュタグによって集った者たちは、二日がかりの祝祭の中で、なにかを分かち合った。それは実に壮大な遊びであり、気概に溢れた暇つぶしであった。二千年前にこの地を生きた弥生人たちもまた、永遠めいた暇の中で、祭りに興じたり、手の込んだ道具を作ったりしながら、営みを紡いでいたのだろう。時が歴史を動かすのではない、人の出会いと遊びこそが歴史を動かすのである。
 『青谷弥生人そっくりさんグランプリ』とは、遠い過去と現在点とを有機的に繋ぐ、豊かな戯れであったのだ。

 また必ず再会することを誓い合い、「そっくりさん」たちはそれぞれの帰路へと向かった。
 その様子を、晴天と大山だけが見守っていた。

 

草原に寝転ぶそっくりさん

 


著者プロフィール

ワクサカソウヘイ

文筆業・制作業。主な著書に『今日もひとり、ディズニーランドで』(幻冬舎)、『ふざける力』(コアマガジン)、『ヤバイ鳥』(エイ出版社)、『夜の墓場で反省会』(東京ニュース通信社)など。どちらかといえば縄文人寄りの顔。今回の一泊二日の道中、弥生人を警戒して棍棒を携えていた。

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 読後は青谷弥生人そっくりさんグランプリ&大集合ツアーの動画もどうぞ!!

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