治療方法について
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)
粘膜切除で根治できるがん(リンパ節転移の可能性が非常に低い粘膜内がん)、潜在的にがんとなる可能性のある病変(胃では胃腺腫、大腸では通常内視鏡治療(EMR)で切除困難な大きな腺腫)に対しては一括切除で根治性の高い内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を積極的に行っています。
大腸ESD症例
大腸の粘膜は非常に薄くて穿孔のリスクの高い、難易度の高い処置になります。粘膜内病変で大腸ESD適応のある患者さんに対しては大きな病変でも一括切除が可能と判断した場合はまず内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を積極的に相談します。また粘膜より深い病変の場合は基本的には外科的手術となりますが、判断が難しい場合にもまず相談します。
- 当院では大腸ESDを先進医療当時から先駆けて導入し、難易度の高い大きな病変、瘢痕、繊維化のある病変も積極的にESDで治療を行っています。
当院の大腸ESD治療成績 (期間: 2009年1月-2018年4月)
ESD治療件数:200症例
病変size(長径):25.9mm(4-110mm)
性別:男 125症例、女 75症例
年齢:68.1歳(38-89歳)
例)通常の内視鏡切除が難しい大腸ESDの適応病変
例)病変の線維化が強く通常の内視鏡切除が難しい病変
例)大きな病変で通常の内視鏡切除が難しい病変
食道ESD症例
食道ESDの絶対適応病変は粘膜病変のさらに2/3の浅い病変になります。食道は胸腔内にあり、粘膜も非常に薄く、穿孔した場合には容易に縦隔気腫などの重篤な合併症が起こります。重篤な合併症を予防、防止するためにリスクのある患者さんは手術室での食道ESDを行っています。そのため大きな病変でも安全に一括切除が可能です。しかし粘膜より深い病変の場合は基本的には適応外となり、判断が難しい場合には消化器外科と相談します。
(例)食道全周を占める大きな病変(全周粘膜切除症例)
胃ESD症例
粘膜にとどまる分化型がんであれば病変が大きくても拡大適応病変として、まずは胃ESDでの治療を相談します(ただし潰瘍、瘢痕のないもので、潰瘍、瘢痕が合併する病変では3cm以内のものが適応となります)。胃には未分化がんもできますが、その場合には当院では内視鏡切除ではなく消化器外科での手術を相談しています。
(例)胃体部後壁の早期胃がんの病変
(例)胃角部後壁の広範囲病変
(例)一部病変が幽門輪にかかる症例
他科と合同での内視鏡治療
当院では必要があれば他科とチームを組んで内視鏡治療を行っています。
咽頭の病変に対しては耳鼻科と合同でESDなど、胃の粘膜下腫瘍については通常は消化器外科単独で治療を行っていますが、ESDの手技と併用して切除粘膜を小さくするLECS(Laparoscopy Endoscopy Cooperative Surgery)の治療も行っています。
◆咽頭ESD(耳鼻科と合同での治療)
狭い咽頭も耳鼻科の先生に咽喉頭直達鏡(佐藤式)を使用してもらうことで内視鏡治療が可能となります。適応病変は耳鼻科の先生と相談となりますが、上皮内の病変が良い適応になります。気管挿管、全身麻酔が必要なため手術室で行っています。
(例)下咽頭がんの症例
◆LECS:腹腔鏡・内視鏡合同手術(消化器外科と合同での治療)
切除適応があると判断された胃の粘膜下腫瘍で大きな切除を必要としない病変が適応になります。できるだけ切除粘膜を小さくして術後の影響を最小限にするためにESDの手技を併用します。こちらも手術室で行います。
(例)胃体上部小弯の胃粘膜下腫瘍
当院が参加している多施設共同試験
下記については大学病院と連携して当院消化器内科で検査、治療を行った症例について症例登録を行い、消化器疾患の現状、検査の有効性、治療の評価の臨床研究に積極的に協力し、将来の医学の発展のための貢献をしています。
(当院で行われた検査、治療結果についてのみであり、個人情報は含みません)
鳥取大学医学部付属病院 第二内科(機能病態内科学分野)
- 「拡大内視鏡を用いたクローン病患者におけるアダリムマブによるパイエル版部粘膜治癒達成効果に関する研究」
- 「出血性胃十二指腸潰瘍に対する緊急内視鏡検査の現況と治療成績に及ぼす因子の検討」
- 「山陰地区におけるC型慢性肝炎に対するペグインターフェロン/リバビリン/シメプレビルによる3剤併用療法の使用実態調査」
- 「C型肝炎ウイルスの薬剤性変異と抗ウイルス治療の有効性・安全性との関連」
- 「鳥取県における肝細胞がんサーベイランスの実態研究調査」
- 「根治的内視鏡治療が可能であった早期食道がん患者の死因に関するがん登録を利用した後ろ向き検討、前向き検討」
島根大学医学部附属病院 第二内科(消化器内科)
- 「実臨床での大腸内視鏡診断における拡大内視鏡の有用性の検討:多施設共同前向き研究」
長崎大学病院 光学医療診療部 消化器内科
- 「抗血栓療法を必要とする患者における大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後潰瘍に対するPGAシート+フィブリン糊被覆法の後出血予防効果についてのランダム化多施設共同試験」
- 「抗血小板薬内服中の患者における胃内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後潰瘍に対するPGAシート+フィブリン糊被覆法の後出血予防効果についてのランダム化多施設共同試験」