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N-3 小船堰堤 若桜町小船
堤:重力式砂防堰堤・玉石コンクリート造・表面石積仕上げ
昭和16年 

小船堰堤は、鳥取県の南東部で兵庫県との県境にほど近い若桜町小船に位置する。戸倉峠付近から国道29号沿いに流下する「落折川」の支流「大瀬谷川」にあり、堰堤の下流には、小船集落や耕地が広がる。
堤長53m、堤高6.7mの本体に、幅15m、長さ7.8mの水叩きが連結し、そこから1m程度の落差をもって、河床へととりついている。水叩きの両岸には高さ3.5mの護岸が立ち上がり、堰堤に広く短い流路が接続されているような構造である。
堤体、水叩きとも、その全面が石積で覆われており、重厚感漂う頑丈そうないで立ちである。
提体には、大小5つの水抜孔が設けられている。中央の一番大きなものは、幅1m、高さ1.2mで上部がアーチ型になっており、他の4つは幅0.3m、高さ0.4mの長方形で、中央孔の両横、両斜め上方に、ほぼ等間隔に配置されており、平常時でも中央孔とその両横の孔からは水が流れ出る。
下流から見て右側の袖部には、石で作った銘板が組み込まれ、そこには「昭和十六年度 小船堰堤 鳥取縣土木課」と刻まれている。その文字が右横書き(右から左へ文字をすすめる横書き、戦後衰退してゆく)であることから、建設時に埋め込まれたものがそのまま残っていると思われる。
この堰堤は銘板に記されるとおり、昭和16年度に施工されたものである。当時のことを知る人から、珍しいエピソードを聞くことができた。
この堰堤の建設には、作業員として若い女性たちが動員され、石やセメントの運搬など力仕事にあたっていたという。
昭和16年といえば太平洋戦争に突入した年であり、時代背景から想定して、男手が不足していたものと思われる。
建設当時の状況を知る資料として、竣工図書一式が鳥取県立公文書館に保存されており、堰堤の構造、諸元はもとより、材料や数量、工費内訳まで知ることができる。
竣工図書によると、この堰堤の構造は、芯の部分が玉石コンクリート造りで、その表面に50cmの厚さで練り石積みが施されている。
使用した材料については、部位ごとに明細が記され、コンクリートや石については数量計算書が添付されているので、詳しく把握することができる。
現在の姿が建設当時のものなのかどうか、外観から判断できる石積みについて、竣工図書に記される構造と現状とを、部位ごとに比較してみることとした。
堤体前面:規則正しく整形された石が使用され、「谷積」と呼ばれる手法で組み上げられている。→竣工図書に合致
堤体背面:不定形の石が、自然のままの状態(野面)で組まれている。不規則ではあるが、谷積の形状を成している。→竣工図書に合致
天端 部:水通し部だけに石が貼られ、平坦部の両端には長辺50cmの長方形の石が並べられている。斜部は堤体面と同じ割石が「布積」と呼ばれる手法で組まれている。→平坦部は竣工図書に合致
水叩き部:堤体背面と同様に、野面石が谷積で組まれている。→竣工図書に合致
以上のとおり、竣工図書に記される構造とほとんど合致しており、外見にも大きな補修痕は見られず、当時のままの姿が現在まで残されているといってよい。竣工図書には、石積の手法までは記載されていないが、大正時代以降、石積み手法は谷積で行うのが絶対的な主流であったことが、さらにそれを後押しする。
土石や流木による衝撃が想定される堤体背面や水叩きには、耐衝性の高い野面石を使用し、さらに堅牢な谷積手法により増強が図られている。また、堰堤の顔とも言える堤体前面壁には整形した割石を用い、規則正しく仕上げることで外観への配慮も成され、見た目にも美しく仕上げられている。
そして何よりも評価すべきは、半世紀以上に渡り下流集落や耕地を災害から守り続けてきたことである。この堰堤が完成して間もない昭和20年、この地方をおそった台風による豪雨で、上流の山が崩壊して土石流が発生したが、この堰堤がそれをくい止め、小船集落には何ら影響をもたらさなかったと伝えられている。
今でも建設当時と変わらない姿を残していることこそが、休むことなくその役割を果たしてきた証である。
現在、堰堤の背後には、水通しの高さに達するほど土砂が堆積している状態だが、その厚く積まれた土砂は功績の大きさを物語る誇らしい勲章のように見える。
平成17年の小船堰堤の写真

小船堰堤の銘板等の写真

小船堰堤の図面等の写真
  

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